偽りのシステム164


 

「なあ、エスタ坊や。この通信は、お前と俺だけの将校用の秘匿回線だ。だから言う。ここからはお前の思う通りに動け。作戦実行中なら、何があっても言いわけが聞く。シュンマッハの目は節穴だ。あれでよく総統などという立場に立っていられると思う」

「エ、エリケン大佐殿、一体何を仰りたいので……」

「ああ、つまりそういうわけだ。人間誰しも、自分の思い通りになんてならねえのが常だ。どんなに実力があったって、上手くいかねえ時は上手くいかねえものさ。裏を返せば、あのシュンマッハって野郎が俺たちの上になっていられるってのも、これはまさにたまたま運が良かっただけってことになる」

「え、ええ……」

「てえことは、極端なことを言やあよ、運が良けりゃ実力なんかいらねえってのが物事の本質って話だ。つまりは、これまでの出来事に俺たちが考えるほど意味なんて隠されていねえってこった」

「は、はあ」

「そうだ。世の中のほとんどは、結構毛だらけ猫灰だらけってな。お前がそうしたいってんなら、そうしてみることだ。やれるのは今しかねえ」

「大佐殿……」

 エスタロッサに対して、エリケンが何を感じていたのかは定かではない。だが、彼女は間違いなくエリケンらとは一線を画していた。女であったことを体で思い出したのだ。

(それゆえの憎悪……)

 エスタロッサは、自分が女であったことを体で思い出した。それによって、彼女は心中に言いようのないジレンマを抱え込んでしまう羽目になった。

 努力で得られるのならそれに越したことはない。だが、努力などでは到底推し量れないことがある。

 あの出会いによって彼女は、羽間正太郎という男に恋心を抱いたのは確実な話だ。だがしかし、どうあがいても越えられぬ出来事がある。それが、現実的には女ではない今の状況だ。

(私は……あの男が憎い。あの男にさえ出会わなければ、私はこんな気持ちにはならなかったはずだ……)


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