偽りのシステム148


「同感です。出来ることなら私も、これが夢現ゆめうつつの幻であって欲しいところです」

 エスタロッサは、脳裏のモニターに映りこむ凶獣の数に辟易し、つい正太郎の言動にも酷似した言い知れぬ皮肉を口走ってしまう。

「へへっ、こういう時は冷静を欠いた方が負けだぜ、セリーヌちゃん。そうだろ? ここはヴェルデムンドアーチなんだ。そうだ、文字通りの地獄の一丁目ってことだ。そんなところで、正攻法の戦法で乗り切ろうったって上手くはいかねえんだ」

「なるほど、だから私に高くまで飛べるか聞いてきたのですね? しかし、高度を上げてどうするというのですか?」

「どうするもこうするもねえよ。できるだけ高く飛んで、空間をだたっぴろく使って敵を分散させるのよ」

「敵を分散させるですって!? あの凶獣たちを!?」

「そうだ。こんな岩山だらけのせまっ苦しい場所で戦えば、今みたいに手慣れたヴェロンの思う壺だ。だから、少しでも少ない敵をおびき寄せて、一体ずつ片っ端から殲滅して行く」

「そ、そんな……。それはあなたが、私たち第十八特殊任務大隊に使った手法なのかもしませんが、こんな場所で高く飛び過ぎれば……」

「ああ、そうだ。高く飛び過ぎれば、この森の巨木たちが黙っちゃいねえ。巨木の巨大つるに無造作に絡まれて、俺たちゃ一巻の終わりさ」

「それを分かっていて、あなたは……!?」

「ああ、やるね。生き残るためにやるね、俺ァ。どんなに窮地に追いやられたって、最後まで死に物狂いで絶対にやるね!!」

「は、羽間正太郎……。でも、どうやって」

「任せろ。ここに二本のデュアルスティックがある。この二本の超振動スティックと、キミの飛行能力があれば何とかなるかもしれねえ」

「何とかなるって……。勝算はあるのですか?」

「へへっ、セリーヌちゃんよう。今はお互い戦略家だとか戦術家だとか指揮官だとかの堅っ苦しい考えはどこかに置いといた方が身のためだぜ。ここはおとなしく、生物の本能に従って純粋に生き延びることだけを考えようせ!!」


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