偽りのシステム146


 彼女が思う、希望の光とは――。

 エスタロッサは、何となくだがその意味を思い浮かべたが、それが具体的に何なのか言葉では理解できなかった。

(そう、どうやらこの人の中には、言い知れぬほどの〝可能性〟があるのです。ですが、それが果たして何なのか……? それが果たして何のための可能性なのかは、さっぱり見当がつきません。もしかすると、その可能性というもの如何いかんでは、私たちの母国や我が軍が滅びてしまう可能性もあるかも知れないと言うのに……)

 それでもエスタロッサはなるべく高度を低く保ちながら、凶獣たちに見つかりにくいルートを突き進んだ。

 ヴェルデムンドアーチの森の中は独特であり、他の大森林とは異質な、非常にごつごつした岩石の基盤から成り立っている。

 その凹凸は、巨大生物たちから見れば石ころ程度のものであるが、我々人類からすれば非常に起伏の激しいノコギリ山のような形状を醸し出している。

 そんな中を、エスタロッサはいとも容易にすり抜けて行った。ここまでの芸当ができるのも、エースパイロットとしての矜恃がなせる業だった。つまり、これこそがこれまで様々な戦場を生き残ってきた証しなのである。

 しかし――

(しかし、こんなことであの凶獣たちの目を撒くことはできないかもしれません。私の勘だと、凶獣たちはいつもより興奮しています。もしかすると、怒っているのかもしれません。私たちが場を荒らしに来たのだと勘違いして……)

 凶獣ヴェロンは、縄張り意識も強い。ヴェルデムンドアーチが、なぜ地獄の一丁目だと呼ばれるのか、そこは誰もが察するところである。

(これでは四面楚歌だわ。友軍のキャンプにも帰れず、反対のゲッスンの谷にも行けない……)

 そう思った時、彼女の目の前に一体の凶獣が立ちはだかった。

「あ、ああっ……!!」


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