偽りのシステム138
彼女はすでに死の覚悟が出来ていた。もう、先行した部隊が全滅を迎えた時から――。
「へええ、意外なことを言うねえ。キミは、バリバリのミックス以上のミックスだってのに、随分古風なんだねえ」
羽間正太郎はまるで気の抜けた言い方をする。こんな地獄の一丁目のような場所でありながらも、どこか穏やかな雰囲気が漂う。
「ば、馬鹿にしないでください! 私はこれでも人間なんです! いいえ、あなたたちから見れば人間と言って胸を張れるものではないかもしれないですが、それでも人間としての
「なるほどなるほど、やっぱりそうか。うんうん」
羽間正太郎はあまりにとぼけた納得の仕方をする。彼女はそんな言い様に少し腹を立てて、
「な、なにがなるほどなのですか!? そいういう言い方、失礼じゃありませんか!?」
「おっと、怒っちゃった? ごめんごめん。だけどよ、ええと、何ちゃんだっけ?」
「なにちゃん?」
「ああ、君の名前」
「え、あ、ああ……私の名は、セ、セリーヌ……セリーヌ・エスタロッサ・ヒューデカインです。軍の登録名は、エスタロッサ・ヒューデカインですが」
彼女は思わず軍に属す前の本名を名乗ってしまった。まだ、女の性を捨てる前の昔の名前だ。
「ほほう、セリーヌちゃんね。清らかな水の流れが聞こえてきそうないい名前だ」
「へ?」
「へ、じゃないよ。俺ァいい名前だと言ったんだ。俺ァ、良いものは良い。そう素直に口に出ちまう性分なんだ」
「そ、そうなのですか……」
エスタロッサは頭が混乱していた。自分は今、だれと話しているのか分からなかった。なぜこんな会話をしているのか分からなかった。途方もなく獰猛な意味を持つこの場所で、なぜ自分はこんな現実味の無い浮世離れした会話に心が惹かれているのか、まるで意味不明だった。
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