偽りのシステム128


「これがヴェルデムンドの背骨折り……。私たちは彼を嘗めていたということか……?」

 エスタロッサは、エリケン大佐に至急連絡を取った。ゲッスンの谷を挟んでいるため、三次元ネットワークが不自由な場所であったが、何とか音声だけが届けることが出来た。

「エリケン大佐、緊急事態です!! 私たちエスタロッサ中隊は、移動中に謎の狙撃に遭い、二番隊隊長のエリエル軍曹と、一番隊サンダース上等兵を失いました。そして我が隊は、敵狙撃兵と交戦中であります!」

「なんと!? そんな場所で狙撃兵がいただと!? 馬鹿な!? 常人レベルでそこに辿り着けるとは到底思えん!!」

 エリケンの動揺を隠せない声が、エスタロッサの脳裏に響く。

「現在、敵の居場所さえ確認出来ぬ状況です。このまま私たちがここに留まれば、間違いなく凶獣たちの襲撃を受けるのも必至かと思われます」

「状況はデータで送れないのか?」

「はい、ここはゲッスンの谷を挟んで正反対の場所。我が軍に有効な三次元ネットワークが繋がりにくい場所でもあります」

「ううむ、なんとも言葉だけでは不確実だ。正確に状況が把握出来ん」

「提案があります、大佐殿。おそらくは敵の狙撃兵は、あのヴェルデムンドの背骨折り、羽間正太郎一人であると思われます。私たち一番隊が奴のおとりになり、残った二番隊と三番隊のメンバーを予定通り制圧隊として特攻させます!」

「何を言う、エスタ坊や!! 貴様ともう一人だけで、羽間正太郎とやり合おうと言うのか!?」

「無論です、大佐殿!! 奴は本気です!! 本気で私たちを殺しに来ています!! でなければ、こんな場所に一人でのこのこやって来るわけがありません!! だから、私も本気で奴を……!!」

「エスタ坊や、無茶だ!! この作戦は失敗だ! 我々の大隊も大半が敵の迎撃部隊にやられた。このまま無謀に突っ込んで行っても被害を増やすだけだ!! 生きていさえすれば、いつか必ずこの無念を晴らすことが出来る! 命を粗末にするな、エスタ坊や!!」


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