偽りのシステム99


「ええ、そうです。私たちはこのひと月の間、あの男にしてやられたのです。羽間正太郎という男。あの男は、いかにもゲッスンライトの実用化が量産機にまで至ったように見せかけるような作戦行動を行っていたというわけです。私たちにゲッスンライトの脅威を感じさせるために……」

「ま、まさか、そんなことが……!?」

「ええ、実は私もそれに気づいたのが、つい小一時間前のことでした。というか、その可能性に気付いて、その可能性を基に逆算して辿り着いた答えというべきです。そうでなければ、このままあの男の思惑のまま手のひらの上で踊らされるところでした」

 エスタロッサ中尉は、その甘いマスクをにんまりとさせた。

「な、なるほどな。つまり、あれか、エスタ坊や。奴は、自分の特殊な機体を前面に押し出して、エースパイロット同士と編隊を組み、いかにもゲッスンライトを組み込んだふうに見せ掛けて、俺たちの部隊を圧倒させたということで良いんだな?」

「その通りです。それが羽間正太郎という男の狙いだと私は考えます。そうすることによって、私たちにゲッスンライトの凄まじい脅威を感じさせ、信じがたいほどの焦りを生じさせる。焦りを生じた私たちの行動は、今までの戦果を鑑みれば火を見るよりも明らかです。あの男は、私たちにゲッスンライトの脅威による焦りを産ませることによって、それを土台にして防衛戦略を立てていたのだと私は考えます」

「う、ううむ。なるほどな……。そうか、それはお前の言う通りかもしれんな」

「あの背骨折りと言う男、かなり出来る男です。自分の機体の性能と、自らの技量を完全に踏まえたうえで、あの危険なヴェルデムンドアーチで戦闘を仕掛けてくるところなど、まさに狂気……。鬼神と形容するのが妥当な男……」

「そうだな。その演出を完全なものとするために、奴は肉食系植物の巣窟に出向いてまでその役目を演じ切った」

「恐ろしい男です。奴の身体を張った演出で、私たちの計画は大いに狂わされました。なにせ、戦力の三分の一を失ったのです。奴の命を懸けた迫真の演出さえなければ、私たち第十八特殊任務大隊は大部隊での総攻撃もあり得たのです……」


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