偽りのシステム96
エリケンは、その戦略を羽間正太郎に読まれていたことに、不穏な何かを感じ取っていた。
生身の人間なら、まさか前人未到の丘陵をまたぎ、その上肉食系植物の巣窟であるゲッスンの谷の西側一帯を占めるヴェルデムンドアーチを通り抜けて仕掛けて来るとは思うまい。
しかし、羽間正太郎は、比較的容易に攻め入ることの出来る谷の東側を一般部隊に警護させ、自らの少数精鋭部隊をピンポイントで西側に配置したのだ。
エリケンは、正太郎のその読みの鋭さと行動力に震撼した。まさに、自らと他の部隊の役割の的を射ていて感心を通り越して恐怖せざるを得なかった。
「奴は、生粋の戦略家だと噂には聞いていたが……。しかしこれで奴が、兵を盾に背後でふん反り返っているような輩ではないということだけは分かった。自らを危険に晒してでも、戦略的な役割を完璧にまっとうしようとする男。それがヴェルデムンドの背骨折り……羽間正太郎という男なのだな」
この後も、エリケンはゲッスンの谷をヴェルデムンド新政府軍の名のもとに取り戻す作戦を続行した。
まだ、ゲッスンの谷において戦略的に防護するまでの数に至らぬ反乱軍の様子からして、その奪還作戦は容易なるものであると、エリケンはたかを括っていた。しかし、そんな希望的観測で臨んだエリケン率いる第十八特殊任務大隊であったが、その任務はひと月以上が経過しても達成することは出来ず、さすがの彼らにも焦燥の色が見えて来ざるを得なかった。
「どういうことなのだ……。俺たちは、それぞれの身体をこの野蛮な世界に完全対応させるために、機械に変えちまったんだ。言うなれば、俺たちは完全無欠のエリート部隊なのだぞ。それなのに、あんな数的な配備もままならねえ反乱軍の寄せ集め共に、こうもてこずるとは……」
言っても、それは第十八特殊任務大隊も同じことであった。
ゲッスンの谷は、その周囲を激しい峡谷と丘陵と、肉食系植物の巣窟である大森林に阻まれた自然の要塞とも言える場所である。そんな特殊な場所で軍備を整えるということは、どちらの勢力にとっても多大な労力と莫大な資金と膨大な日数が必要なのである。
「クソッ! 消耗戦でなら、まずは俺たちの方が不利になっちまう。なにせ向こうは、ゲッスンライトを資源とする一大工業都市なのだからな……。このままでは、俺たちに勝ち目はねえ。ならば……」
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