偽りのシステム61


「裸のままだと……!? そ、それはもしかして?」

 言われれエナは、顔を噴出したばかりの溶岩のように真っ赤にして、

「そうよ! きっとあなたはどこかの女の人と……そ、その……あ、甘い一夜を過ごして、その後に深く寝入った隙にさらわれてこうなったと考えられるわね!!」

 彼女の頭からは、激しく湯気のようなものが出ている。正太郎が言葉を掛けようとするが、そっぽを向いてまるで答えようとしてくれない。

「わ、悪かった……エナ。そういうの、今のお前にはまだ早かったよな? ゴメン、謝るから許してくれ……」

 エナはしばらく黙り込んだままだったが、やがて小さく振り向いて、

「まあ、あなたは大人なんだから仕方がないんでしょうけど……。そういうの、もうちょっと気遣ってよね。あたし、これからもずっとこのまま子供のまんまなんだから……」

 彼女は寂しそうに答えた。

「ホント、悪かったって……。エナ、一応倫理的にはそういうのはご法度だが、寂しいならこうしてやる」

 言って正太郎は彼女を後ろから抱きかかえると、金色の髪がまぶしい小ぶりの頭を優しく撫でてやった。

「ホント馬鹿ね……。そういう余計な気遣いが、返って人を傷つけるものなのよ」

「何か言ったか?」

「ううん、何でもない。そんなことはいいから、もっと優しく撫でてよ……」

 しばらく正太郎がエナの美しく滑らかな髪の感触を感じていると、

「ねえ、ショウタロウ・ハザマ。本当に本体に意識を戻したい? もう一つだけ、このまま仮想世界に意識を残して生きて行くっていう選択肢もあるわ」

「そ、そうだな……。それもアリかもしれねえな」

「でも無理よね。だって、あなたには現実で会いたい人がいるもの」

「ううん……。まあ、否定は出来ねえが」

「ねえ。そんなに小紋さんに会いたい?」

 言われて正太郎は、どう答えるべきか迷った。どう言葉を選ぶべきか迷った。

「あ、ああ……。アイツは、俺にとって最初で最後の弟子だからな」

「それだけ?」

「いいや、それだけじゃねえ。それだけじゃねえんだ。俺ァ、アイツのことがきっと大事なんだ。何よりも大事になっちまっていたんだ。けどよ、いつの間にかアイツは俺のもとから居なくなっちまってよ……」



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