偽りのシステム㊽


「うむ、やはりそうなるか……。どの世界にも、役割と言うものが重要だからな……」

 言って、大膳はコルプスの非業な死を嘆いた。そして故人を偲んだ。共に大事をやり遂げた同志を、真の戦友と呼ばずしてなんと呼ぼうか。

「とは言え、イバンゲル少尉。ここは私とて無為に感傷になど浸ってはおれぬ。ここで立ち止まれば、亡きコルプスの意思をも無駄にすることになる」

「ええ、おっしゃる通りです……僭越せんえつながら、この私めもそのように感じます」

 そうイバンゲルに同意を得た時、大膳はハッとした。

「少尉! 後生だ。君たちの力で、コルプスの家族だけでも救うことは出来んか!?」

 大膳は、亡きヘーゲル・コルプスの家族ともかつては親交があった。思い起こすのは、赤い髪をした上品な細君に、男女合わせて四人の快活な子供たちの姿だった。

 しかし、そこでイバンゲル少尉は首を振った。

「残念ながら、そのご命令には従えません」

「ま、まさか……!?」

「ええ、お察しの通りに御座います。ああ見えて、あの男はそういった部分だけは手際が良く……」

 大膳は愕然とした。そして悔いた。自分があの国から姿をくらましてさえしていなければ、コルプスのみならず、彼の家族たちは死なずに済んでいたのではないかと。

「ダイゼン・ナルコザワ。私はこれで……」

「あ、ああ……」

 イバンゲル少尉が彼の執務室を下がると、途端に空虚な風が通り過ぎた。

(ああ、私は何をやっているのだ。何を迷っているのだ……)

 彼は頭を抱え、がっちりと据え置いたデスクに肘をついて頭を抱えた。

 個人的感傷は二の次だと言っておきながら、まだ彼は優しさを捨てきれていなかった。人類を救うためには、それは二の次だと主張しておきながら。



 ※※※



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