偽りのシステム㉗


 これも、グリゴリが放つ羽間正太郎に対しての策の一つであった。

 彼の性格をして、他人の期待に応えることが最優先とされる。ともなれば、彼に由縁を持つ人々が多ければ多いほど羽間正太郎という男は光り輝く。

 そんな彼の記憶の中に存在する人々のデータを破壊すれば、彼は間違いなくやる気というものを損ねてしまう、グリゴリはそう判断したのだ。

 真の正太郎は、考えるしかなかった。すぐさま攻撃を仕掛けたいところだが、ここにある展示物や掲示物、そして机や椅子と言ったものが破壊され続ければ、彼の中からのこういった記憶は一切消え失せてしまう。

 ましてこのような大昔の些細な記憶ならまだ良いが、この後グリゴリがどのような情景に変換させるやもしれない。

 どんなに正確なアルゴリズムを持った思考法でも、基となる起点を間違えれば、人は誤った場所へと導かれる。

(そうか、そういうことか。向こう側の俺は、きっとそういった手法で記憶の改竄かいざんが成されちまったんだ。だから、あんなポンコツ野郎の言葉を信じて……)

 同じ素質を持った者として、真の正太郎は悔しかった。たとえ仮想現実の中で生み出された同じ存在だからとて、それは一言に憤りでしかない。

(俺たちの記憶を壊さずに、奴をこの世から葬る方法……)

 極限の選択であった。真の正太郎の心の中に浮かぶ情景。それは――

「俺は……全てを選択してやる!!」

 叫んで、彼は向こう側の正太郎の懐に一気に飛び込んだ。それを予期せぬ向こう側の正太郎は焦り、右腕に構えていたレーザーソードを振りかぶって打ち下ろしてきたが、

ふんっ……!!」

 真の正太郎はそれを左腕でソードの根元から受け流し、さらに身体にひねりを加えて一回転すると、

「遅いっ!!」

 とばかりに、向こう側の正太郎の背後を取った。

「テメエ、考えることを辞めた時点で、もう俺は俺じゃねえんだよ!!」

 言って彼は、向こう側の正太郎の首元から背中にかけてバッサリとレーザーソードを打ち下ろした。


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