偽りのシステム⑥


「ミソやおショウユ……。なるほどね、それってアジア圏で食べられている調味料のことね。ううん、言い得て妙な例えだけど、それは的を射ているのかもしれないわ」

 エナは、小さく細い指を軽く顎に当てて深くうなずいて見せる。

「ああ、俺ァ昔からそう考えていた。宇宙なんてもんは、発酵過程の一つの味噌樽か酒樽かもしれねえって。つまり、発酵過程で得られる目的の物が、きっとその始祖ペルゼデールとかいうシステムの目指すところなんじゃねえの?」

「ふうん、なるほどね。ということは、始祖ペルゼデールのシステムは、その発酵を促す酵母の役割を様々な形で模索し続けているってわけか。さすがはショウタロウ・ハザマ。面白い発想ね」

「だって、この世の中の自然の摂理を鑑みりゃそんなもんだろ。大抵の自然の営みはある種の法則で決まっている。大昔っから味噌や醤油や酒なんか、その法則に従って作り続けているんだからな。それを自然にやり続けているってことは、大昔から何も変わらねえんだよ、世の中の法則ってのはよ」

「まさにネイチャーの象徴であるショウタロウ・ハザマの考え方ね」

「いや、別に俺ァ、自然主義とか自然原理主義とか語りたいわけじゃねえ。だがよ、そういう流れがあるからには、自然発酵の熟成を待つのが良いんじゃねえかと考えていたわけで……」

「それが今現在、あなたのような人を象徴として言われている〝ホモサピエンス・サピエンス・ヴェルデムンダール〟の誕生というわけね」

「なあ、エナ。それ本当に言われてるのか? そんなの俺ァ、聞いたこともねえぜ」

「そりゃあ、あなたは聞いたことないわよ。あたしはね、あなたと違ってアカデミック一筋に生きて来たの。これはあたしたちの界隈でしか知られていない概念でしかないのよ」

「そりゃあどうも。アウトサイドに生きて来たこの俺には、遥か彼方のアンドロメダより遠い話ってこった。けどよ、エナ。てえことは、そのホモサピエンス・サピエンス・ヴェルデムンダールってのが、この俺なのだとしたら、おかしいよな? だって始祖ペルゼデールの目的は俺たち人類の〝熟成〟と考えてもいいはず。なのに今は……」



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