浮遊戦艦の中で348


「この世界を滅ぼしたい者……」

「そう、それは言わば、あなたのようなこの世に不満を持つ者。自分の理想と現実とがかけ離れてしまっているというお考えの持ち主が抱く破滅の精神のことです」

「破滅の精神……」

 リゲルデの歩んできた道のりは、確かに順風満帆ではなかった。それだけに、大膳の言う通り、彼の背景には世界の破滅を切望していたところがある。先の戦乱では、自然派などという保守的な立場に属していながらも、心の奥底では世界の革新以上に滅亡という二文字を胸に刻んで戦っていたのである。

「何ということだ。そこまでこの俺の心は読まれていたのか……」

「ええ、それは当時の私にも分かりました。他の戦略家と違い、あなたの仕掛けた戦いには生存や野望、任務達成と言った通常の戦略家が望むことがどうしても感じられなかったのです。それよりも、とにかくどこか混沌としたものを呼び込もうとする意図が滲み出していましたから」

「そんなに前から分かっていたのか……」

「ええ、そうです。私は当時、発明法取締局の長官の任についておりましたからね。今の立場におらずとも、そういった分析は得意としておりました。なにせ、発明法取締局の真の存在価値とは、そういったあなたのような人々に、新しい発明品を使っもらいたくないがための抑止力でしたから」

「ふうむ、抑止力か……」

「しかし、ヴェルデムンド新政府樹立によって、世界は自らが暴走し始めたのです。まるで、誰かの意図するもののように」

「それが、世界に刺激を与える者の存在ということか!?」

「ええ。先の戦乱も……いや、新世界ヴェルデムンド移住計画も、無論世界の人々に刺激を与えるための戦略の一つだったはずです。あなたも私も、この世界の人々すべてが、その者の手のひらの上で踊らされていたというわけですな」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る