浮遊戦艦の中で345


 リゲルデは、手を出せなかった。彼は精神的に未熟だった。物理的にそれらが、彼の愛した〝アマンダ・シャルロッテ〟でないと分かっていても、姿かたちだけ寸違わぬ外観に身をまとったを討つことが出来なかったのだ。

「嘆かわしいぞ、リゲルデ殿!! あなたが精魂込めてでたあのは、もうこの世には居ない!! それでもあなたはまだ断ち切れぬか!?」

 動きの止まったリゲルデに対し、虹色の人類たちが化したアマンダの幻影は、そろいもそろって一様にニヤリとした笑みを浮かべる。そして、執拗に褐色に映える美しい足で激しい蹴りを入れて来る。

 リゲルデは一瞬にして吹っ飛んだ。三メートルにも及ぶ漆黒の巨体が、アマンダの幻影たちの蹴りによって恐ろしいほどの唸りを上げて横っ飛びになった。吹っ飛んだ先には、まだ割られていない生命カプセルの数多の山が軒を連ねている。そんな中に、くしゃりと音を立てて身も心もねじ伏せられたようにぶちのめされたのである。

「ミ、ミスターワイズマン!!」

 ジェリー・アトキンスが悲鳴にも似た大声で叫んだ。しかし、彼にはどうすることも出来ない。生身の肉体である彼に、今成す術がないからだ。

「だから言ったではないですか、リゲルデ殿。あなたは我々に勝てないと。そう、我々はを心得ている。その弱き部分。その醜い部分。その欲深い部分。限りある生命体ならではの焦りの部分。そういった業の深さを人類以外の目で見定めて来たこれらの五次元人と自負する連中の観察眼によって、我々はそれを兵法のデータとして認識している。ゆえに、我ら〝真・ペルゼデール・ネイション〟に敵う者はないのだ」


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