浮遊戦艦の中で289


 古来より連綿と受け継がれる暗殺組織〝黄金の円月輪〟には、元の地球世界との行き来が出来ると言う奥の手があった。

 しかし、その技術を応用して他の次元世界とを行き来するまでには至らなかった。なにせ、彼らの知り得た技術は、表向き上、機械神〝ダーナ・フロイズン〟から受け継がれたものとして存在しているからだ。いくらいにしえより続く暗殺組織と言っても、その技術を読み解き、応用するまでには至らないのだ。

「アフワンよ。そろそろ〝浮遊戦艦〟がこちら側の世界に現れる頃だ。まだ我々もあの巨大な乗り物の解明にすら至っておらぬ。パーフェクトワンワールド計画を遂行するには、あの戦艦をも手中に収めねばならぬ」

「御意。なにせ、他の次元世界から放たれた刺客たちは、あの浮遊戦艦から現れたのは確認できているのですからな」

「そうだ。あれさえ手に入れば、我らは元の地球への渡航のみならず、他の次元世界への渡航すら可能になる」

「さすれば、我らの計画はさらに促進されまする」

 言って彼らは互いにうなずき合う。そしてまばゆい光と共に融合種ハイブリッダーへと変化へんげし、遠い空の彼方へと秒も経たぬまま飛んで行ったのだ。



 それから、リゲルデが確かな意識を取り戻したのは少し後になる。

 リゲルデが気が付いた時には、彼はベッドの上に居た。

 窓から直接陽の当たる場所に枕元がある。ガラス窓ではない。板塀を上げ下げしただけのとりこみ窓である。

 外の空気が直に入って来ているが、別段嫌な気がしない。

(ここはどこだ……? 俺はどうしてこんなベッドの上で寝かされているのだ……?)

 記憶が曖昧あいまいであった。今この時が現実であるかさえおぼろげであった。

(あれは夢だったのか……? 確か、俺はわけの分からん連中の話を聞いて……)

 不安になって布団の中に手を当てて身体をまさぐってみたが、

(俺は俺のままだ……。あんなの姿になどなっていない……)



 

 

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