浮遊戦艦の中で262


 戦いの意図がまるで掴めなかったが、

「まだ機体の損傷がこの程度なのは不幸中の幸いだ……。しかし、この俺の操縦技術もさることながら、奴の腕の未熟さはその上行く。ただ、あの言い様であれば、相手はこの俺を確実に知っている。そして、確実にこの俺の命を狙っている……」

 それだけは確信出来る。

「にしても、あの機体……。古いタイプの機体であることは間違いないが、あの図体の大きさでの開発プランなど聞いたことが無いぞ。個体パワーだけはあるようだが、あの機動力の弱さでは、凶獣の一匹ですら追い払えんはずだ……」

 このヴェルデムンド世界にあっては、フェイズウォーカーの発展過程の主要目的は〝対凶獣〟にあった。

 移住当初のフェイズウォーカーの性能は、まだフェイズワーカーに毛の生えたようなもので、〝対凶獣〟という代名詞を大手を振ってうたえるような代物ではなかったのだ。

 まだその頃では、サポート人工知能の性能も乏しかった。さらに、その出力も機動性も航続時間も今現在の十分の一にも満たない状態だったのだ。

「今や、フェイズウォーカーと言えば人間同士が争うためのマシンとしての代名詞だが、当時はこの世界の肉食系植物……特に凶獣ヴェロン対策を重点に置いて発展してきた経緯がある。それを考えれば、あのなんぞ、この世界では意味を成さないはず。にもかかわらず、これはどういうことなのだ……」

 リゲルデは、遠目に映る敵影に目を凝らし顔を歪ませる。

 あの敵影は、完全にこちら側の命を狙って来ている。どこか、こちら側に憎しみを抱いている。





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