浮遊戦艦の中で253


『君たち人類よ。そこまで言うということは、もう薄々勘づいているということで良いな? そうだ。君たち人類が名付けた凶獣ヴェロン。そして、こうやって君に話し掛けている私こそが……君自身なのだよ』

「…………!!」

 その時、剣崎は全く言葉が出なかった。何か言葉を返そうと頑張ってみたが、一向に声が出ない。驚きというよりも、入り込んだ情報が頭の中でこなし切れていないのだ。

『君たち人類よ。いや、この私と思考のやり取りをしている別の世界のよ。どうやらやはり、君は私自身のようだな。こうやって耳を澄ますと、君の体内に流れる鼓動が私の頭の中に連動して響いて来る。そして、この息遣いそのものが何よりの証しだ……』

 剣崎は、声の主とのやり取りの途中にそれとない既視感を覚えていた。何ということだろう。それは夢で見た架空の自分の姿であり、そしていつか感じたことのある積み重ねの感覚であった。

 その声を聴いていたウィク・ヴィクセンヌの乗組員クルーたちも、一様に戸惑いを隠せなかった。打ち震えて身動きが出来なかった。この頭の中に直接響いて来る声の主が、剣崎の代わりの姿であるなどと容易に受け入れられなかったのだ。

「こ、声の主よ……。お、お前は凶獣でありながら、この世界の俺であると言ったな? では聞くぞ。お前は、俺たち人類と交渉を経て一体何をしたいというのだ? 一体、何を目的としているのだ?」

 剣崎が動揺を隠しきれぬ震え声で問うと、

『それは難しい質問だ、君たち人類……いや、他の世界の私自身よ』

「何? 質問が難しいだと? 何故だ? 何ゆえ目的を問うのが難しいのだ?」

『それは質問が漠然としているからだ』

「何を言う? そちら側の目的をというということは、かなり率直な質問なはずだ」

『それは時と場合による。他の世界の私自身よ。なぜならそれは、私自身にも予測不可能だからだ』

「予測不可能だと?」

『そうだ。それはつまり、君と私のように、同じ人物がこの世界には多数存在しているからなのだ』

「何ぃ!? 俺たちがこの世界に大勢いるって言うのか!?」


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