浮遊戦艦の中で177


 剣崎は、様々な意味で呆気にとられていた。なにせ、この目の前に居る〝烈火〟と呼ばれるアンドロイド。こいつが余りにも隙の無いであったからだ。

(この女、よくもここまで自分の趣味趣向を反映させたものだ……。見た目はまるで、どこぞのミュージシャンのようではないか。それもかなりビジュアル系寄りの……。一戦交えると言うからには、どれだけ武骨な相手が来るかと思いきや、ここまで痩せ型で、こここま自己主張が感じられる銀髪で、ここまで八頭身以上のスタイルを誇られると、かなり引くものだな……。おまけにこれから戦闘を挑むとも思えぬような、あのビラビラの付いた衣装は何だというのだ……)

 さすがの剣崎も開いた口が塞がらない。

「剣崎大佐? いかがなされましたか? 何かお顔色が優れないようですが……。先ほどのお食事で何か悪い物でもお召し上がりになられたのでしょうか……?」

 かなり的外れな質問だが、どうやらフーリンシアは本気でそう思っているようである。

「え、あ、まあ……。別にそういうわけではないのだが……」

「はあ、そうですか。ならば問題はありませんね。こちらもいち早くサンプルとしてデータ収集を行いたいのです。ですから早速戦闘を始めましょうか。何しろ今は作戦行動中ですからね」

 そう言って彼女は淡々と戦闘用ドール〝烈火〟の最終チェックに取り掛かろうとする。

 剣崎は、全く自分のペースをつかめぬまま白兵戦用の防具を身に付けさせられた。

(むう……。実戦でないとは言え、さすがにこの俺も自らの手に武器を持って相対するのは久しぶりだ……。日ごろからの修練は怠ったことはない。だが、ドールを相手に俺は満足に戦えるのか……? 戦いの間に勘を取り戻せるのか……?)

 剣崎は、長尺の杖の先にビームの刃が飛び出た薙刀なぎなたを構えた。彼は生来のリアリストである。それだけに、実戦武器として有効とされる薙刀を選んだのだ。


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