浮遊戦艦の中で174


「いえ、お言葉ですが、大佐! これは私の個人的としての要望ではありません! れっきとした軍の作戦としての要望なのです!!」

 フーリンシアは、今までになく声を荒らげて食い下がって来た。艦橋内の他のオペレーター達も何事が起きたのかと一斉に視線を投げ掛けて来る。

「お、おい。落ち着き給え、フーリンシア君……。君はこの状況で何を言って居るのかね?」

「ああ……。猛将、豪傑にして知略に長けた戦略家とうたわれし剣崎大佐ともあろうお方が、このようなことも分からないなんて、そんな……」

 フーリンシアは、口に手をかざすようにして嘆きの言葉を吐いた。それはまるで寸劇のように大仰な身振りである。が、美しさ溢れる彼女が行うとなぜかわざとらしさがなく、逆に艶やかに見えてしまう。

「フ、フーリンシア君……。何がこの俺に分からんと言うのかね? 今は大事な作戦行動中であるぞ。この世界が……いや、このヴェルデムンド世界と、我らの母なる大地、地球の今後の命運が混迷の一途を辿るこの時期に、なぜ俺が君の作り出した人工知能と戦わねばならんのだ!?」

 すると、フーリンシアは獰猛な虎のように光り輝く眼差しを剣崎に向けて、

「何を仰っているのです! こういう時だからこそ、大佐のお力が必要なのです!!」

「俺の力が必要? それは余りにも当たり前のことではないか……。だからこうして俺は今回の作戦の指揮を任されている……」

「そうではありませんよ、大佐。剣崎大佐がこの奪還部隊の指揮をお執りになることは、過去の実績や実力、そして経験などから総合してみても当然のことです!」

「お、おう……」

「しかし……しかしですね、大佐! 私が今言っていることは、そんな決まりきった予測可能な話を申し上げているのではないのです!!」

 

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