浮遊戦艦の中で137


 マリダが言葉を放つや、敵部隊の一同は一瞬にして意識を持って行かれていた。彼女の魅惑的な声に安らぎと希望を感じてしまったからだ。

「皆さま、わたくしの話をお聞きください。皆さまは今現在、さぞやお苦しい立場にいらっしゃることでしょう。シュンマッハ殿の政権がどうであれ、皆様自身が大切なお命を無闇に捨てることなど御座いません。どうか考え直していただきたいのです。このままわたくしとこちら側に同行していただければ、決して悪いようには致しません。共に元のような穏やかな日常を取り戻すために戦って頂けませんでしょうか? これ以上とやかくあれこれとは申しません。なぜなら、その理由はそちらにいらっしゃる皆さまが一番理解していることだからです。もう一度申します。このまま、わたくしとご同行いただけませんでしょうか?」

 マリダは真剣だった。誰よりも優れた戦闘力を有しながらも、彼女は戦いで雌雄を決したくはなかったのだ。

 討伐隊の先鋒たちは、戸惑いつつも構えていた銃口を次々と下ろし始めた。彼女の言葉に半ば賛同し始めたからだ。

 彼らリゲルデ討伐隊に選ばれし面々は、どちらかと言えばクーデターを起こしたシュンマッハらの虚実のプロパガンダにまともに洗脳を受けてしまった人々である。

 いや、洗脳とまでは行かずとも、そのでっち上げの情報を純粋に信じてここまで来てしまった人々なのである。

 だが、事実はどうだ。そう、彼らが派遣された女王討伐は、事実として敵味方関係なく消耗戦を余儀なくされたでしかなかったのだ。

 これを踏まえれば、どちらが正しいのか。どちらが自分たちの居場所として相応しいのか。そういった判断をするには容易い状況なのである。

 次口と投降の兆しを見せる討伐隊の面々に対し、

「これでわたくしが、この世界に生まれ出てきた意義が果たせるというものです。クラルイン博士……」

 マリダが、そっと胸をなでおろそうとした、その時である――

「悪の女王、マリダ・ミル・クラルイン!! そのような戯言を語る邪悪なアンドロイドめ!!」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る