浮遊戦艦の中で115



「義務? なるほど、そうかもしれません。ですが……」

「よい、よい。あまり背伸びをするな。俺は今ままのお前でよい。愚かで醜い人間になぞならなくても、今のままがよいのだ」

 リゲルデはそう言って、シャルロッテ中尉の豊満な乳房の先端を淫らなぐらいすすり込む。途端、シャルロッテは激しくのけぞって悩ましい声を上げた。



 事が済むや、二人はぴしゃりと軍服を着直した。や、そこで互いに向き直ると、

「それでな、アマンダ……いや、シャルロッテ中尉。俺はこの命令を――女王部隊掃討作戦をどうしても成功させたいと思っている」

「はい、リゲルデ様。それは一人の指揮官として、当然の感情でありましょう」

「いや、そうではない。これは俺の、一個人の意地だ」

「意地……で、御座いますか?」

「ああ、意地だ。俺はな、アマンダ。子供の頃から医者になるのが夢だった。子供の頃、体が弱かった俺は、当然のように病院に行くのが常であった。そこで出会った担当の先生がとても理知的で優しくて、な……」

「中佐の憧れでいらっしゃったのですね」

「ああ、俺はあの先生のような理知的で包容力のある存在になることを夢見て幼き頃から精進してきたつもりだった。それが今やあの化け物の操り人形と化し……」

「そうで御座いましょうか? 私には。中佐は今でも立派にことを成し遂げていらっしゃるように見受けられますが……」

「世辞はよい。自分のことは自分が一番よく分かっているつもりだ。にもかかわらず、他人の病気を治すために尽力してくれた先生の姿に憧れを抱きながら、今や人を陥れるために事を運ぶ俺に、何の価値があろう」

 リゲルデの語気が上がる。シャルロッテは、そんなリゲルデを無表情で見つめながら、

「私はどんなことがあっても、中佐のために働きます。価値など問題の無いことです」

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