浮遊戦艦の中で97


「い、いえ……それが、ようとして足取りは掴めず……。どうやら、陰であの女を手引きする者がいるのではないかとささかれておりまして……」

 それを受けてシュンマッハ少将は、

「リゲルデ中佐。貴様は、何年この職業に時間を費やしておるのだ。軍というものは憶測や想像だけで物を語る場所ではない。私は事実のみを聞いておるのだ。どこぞの噂話を鵜呑みにして、それが全くのデタラメだったら、一体どうかたをつける気なのだ? それが敵方が撒いたデマの類いだったらどうする? 貴様はもっと大局を見て物事を話す癖をつけろ。そうでなければ、これから我々が行おうとする国家運営など夢のまた夢になってしまうのだぞ!」

 少将は腰に携えた銃に手を当てつつ居丈高な言い様をする。

「は、ははあっ!! このリゲルデ……。今後とも、その少将の金のお言葉、肝に銘じて精進して行く所存で御座います……。なにとぞひらにお許しを……」

 側近のリゲルデは、冷や汗を流しつつ背筋が反り返るほどの敬礼をする。なにせ、目の前の少将の怒りを買うことは、時に命を捨てることと同じ意味があるからだ。

 このシュンマッハ少将という男は、一見して理路整然とし、いつも正論を武器にして周囲を戒める落ち着いた雰囲気を持っているかのように見える。だが、実はその正反対で、かなりの気分屋な男なのである。

 一旦彼の心に不機嫌極まりない怒りのスイッチが入ってしまえば、それが公然の場であろうと幾人もの死体の山が築かれてしまうことになる。側近のリゲルデは、その光景を親の顔を見るより何度も目の当たりにしていた。ここはどんな不名誉な言い方をされたとしても、少将の言葉に同意するのが得策というものである。

 とは言え、彼ら第八大隊の面々は、この国にある理想を掲げて決起し、〝今世紀最大の理想的な女王〟とまで呼ばれたマリダ・ミル・クラルインを武力をもって失脚させたのだ。目的のためなら何事もいとわない彼らしいやり口に従わざるを得ないのはこのためである。

 さらに、側近のリゲルデ中佐も、その失脚劇には並々ならぬ謀略の限りを尽くした。

 彼らは、マスコミや口コミなどを利用し、前政権である女王マリダの政治を徹底的に批判した。それは、重箱の隅を楊枝でほじくるほどの徹底ぶりであり、全く事実でない事象をでっち上げて国民の心を逆なですることもいとわなかった。

 彼ら、第八大隊の面々は、この国が成立する以前は、地球の国境や民族といったも厭わない拝金主義団体から援助を受けていた経歴を持つ。

 しかし、そんな拝金主義団体のやり方に真っ向から異を唱えていたのが、何を隠そう女王マリダなのであった。

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