浮遊戦艦の中で71


 あのヴェルデムンド世界でのフェイズウォーカーの役割は、何と言っても人間を肉食系植物の餌食にさせないことである。

 昼夜を共にし、寄留地から寄留地までの長い道中に、完全なる安息をむさぼるためには、やはり彼ら人工知能の役目はかなりの位置を占める。

 しかし、以前の地球においては、人類は暫定的にヒエラルキーの頂点に君臨しており、あの世界のように常に命の危険に晒されているわけではない。

 よって、それをサポートする人工知能も、自ずと成長や進化を遂げる必然性が無くなって来るというわけである。

(あの世界では、必要であるという無意識が人も人工知能も自然に成長させてしまう……。僕もあの世界に渡って、羽間さんと出会って沢山のことを学ぶことが出来た。あの世界に居たからこそ、今の僕があるんだよね……。だけど、疾風はやてとおんなじ今の人工知能には、少なからずそれがないんだよ……。そこんとこの大きな違いなんだよね!!)

 彼女は奥歯を噛み締めるや、スロットホバーを全開にさせ、迅雷五型改を強引に離水させた。

 最高速、マッハに限りなく近いスピードにまで四十秒とはかからない。迅雷五型改の機体は全フェイズウォーカーの中でも、全体的にかなり空力抵抗を考慮された機体であるがため、高速機動に特化した機体である。

 彼女はあらゆる方向から来る重圧に耐えつつも、機体を疑似暗礁空域に突入させ、一度そこを起点として敵をおびき寄せる作戦である。

「来た来た。飛んで火に入る夏のスズメバチちゃんたち……。そろいもそろって、段々人間や生物とはかけ離れた姿になっちゃって!!」

 刹那、小紋は迅雷五型改の主戦武器であるロックワインドミサイルを乱れ撃ちした。

 そのロックワインドミサイルは、小型軽量であるものの、体長三メートル程度の融合種ハイブリッダーに当たれば、微塵に吹き飛ばすことが出来る。かなりの高性能追尾機能があるお陰で、相手がすばしこい融合種であるとは言え、数で攻めてくる相手へのけん制にはかなり効果的なのだ。

「ロックワインドミサイル、敵対象二対シ、十五発ノ命中ヲ確認――!!」

「ええっ、たったの十五発!? 今ので四十発は撃ったんだよ!? それだけ相手も回避能力の腕前を上げたってこと!?」


 

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