浮遊戦艦の中で59



 小紋は言うや、通信回線を揺動部隊に合わせると、

「南雲三尉、準備は出来ましたか? こちらは出撃準備オーケーです。作戦は、先ほどブリーフィングで言った通り、僕たちは奪還チームの潜入をスムーズにさせるためのおとりと揺動です。だから、出来るだけ相手を引き付けてから撃ち落とすように心掛けてください」

「ハッ、了解いたしました、鳴子沢リーダー。この南雲与志朗三尉以下、六名。計七人は浮遊戦艦から排出される融合種ハイブリッダーを引き付け、それを排除するとともに、リーダーのそのお命を必ずやお守りします」

 その顎の尖り具合から察せられるように、南雲三尉の肉体は野生の肉食獣のように鍛え上げられている。

 南雲三尉とその配下六名からなるJTF-418ER、通称【荒神こうじん八型改ー改】を操る部隊は、小紋らが所属する抵抗組織〝シンク・バイ・ユアセルフ〟本部のエース級部隊である。小紋のみならず、彼らに対する組織全体の信頼は絶大なものがある。

「お頼みします、南雲三尉。今回は……いや、今回だけでも僕たちは何とか作戦を成功させなければならないんです。そうでなければ……」

「いや、それ以上のお言葉を口にするのはおやめ下さい。我々の考えはリーダーの物だけでは御座いません。これは皆が一様に心の奥底に願うことなのです。それを実現するために、我々はこうやって世界各国から集結し、国籍を超えてまで戦っているのですから」

 南雲三尉の言葉と同時に、通信モニターには、他六名のパイロットの引き締まった表情が映り込む。その顔触れは、まるで洋の東西を問わずして、様々な髪の色や肌の色をしたパイロットたちばかりである。彼らは、それぞれがこの浮遊戦艦の登場によって経済破綻を起こし、そのために国を亡くしてしまった軍人の集まりなのである。

「有難うございます、三尉。だからこそ、みんながそれぞれの故郷を取り戻すためにも、ここで僕たちが負けるわけにはいかないのです」

「了解致しました、リーダー。我々は、あなたのためのみに戦うわけではありません。そして、自分の為だけに戦うわけでもありません。しかし、我々は、自分たちの国を……故郷を取り戻すためにはあなたという存在が必要なのです。よって、我々は作戦行動を全力で行うとともに、鳴子沢リーダー。あなたを全力でお守りして見せます」



 

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