浮遊戦艦の中で㊶


 

「そういうことではない? では、何を仰りたいのですか、鳴子沢リーダー」

「え、いや、その……何て言うか。もしかして何ですけれど、大佐はこの僕に、羽間さんの役目をやれとおっしゃっているのでしょうか……?」

「は? 何を申されるのかと思えば、鳴子沢リーダー。今さらになってそのようなことをお気にされておられたのですか?」

「え、ええ……。ちょっと……羽間さんの役は、僕には荷が重いと言うか、何ていうか……」

「ええ、ええ。あの方の役を演じ切るのは確かに困難なことでありますな。しかし、あなた様のように、師弟の関係をも超えたところにいらっしゃった方なら、誰にも怪しまれずにあの方の〝JOKER〟としての大役を果たせられるはずだと。しかも、あれだけ女性との親密な関係を築き上げることを得意としていたミスターハザマでしたから、リーダーにおかれても同じであると……」

 シュミッター元大佐がその言葉を言い切ろうとしたとき、小紋は微妙な面持ちのまま顔を真っ赤にして下を向いてしまった。

 そんな彼女の素振りを横から窺っていたマツモト技術士官が突然間に割って入り、

「ちょ、ちょっと、失礼ですが元大佐!! その発言は少し慎まれた方が……!! それは世間一般的にセクシャルハラスメントに値しますから!!」

「む? セクシャルハラスメントだと? 今の発言のどこが!? 私は作戦参謀であり戦略家なのだから、物事の隠し立てをするより事実をありのままにだな……」

「私はそういうことを申し上げておるのではありません! 現に、鳴子沢リーダーがお困りになっておられるではありませんか!」

 言われてシュミッター元大佐は、小紋の表情を改めて見直した。するとこそには、身を縮こませて小さく人差し指同士をつんつんさせながら、耳の裏まで上気させている小柄な女性の姿があった。

 そこでシュミッター元大佐はハッとして掌で額を突いた。そこで初めて自分の完全なる失態を悟ったからだ。

「い、いや……鳴子沢リーダー。これは面目ない。何と詫びの言葉を申し上げればよいか……。私が自分自身をこれほどまでに愚かであると自覚したのは初めてだ。そ、そうか、そういうことだったのですね。私はてっきり……」

「いいんです、大佐。確かに僕は、他の方より羽間さんに大切にされていました。でも、大佐がおっしゃるような関係にはまだ……」

「ううむ、なるほどそうでしたか……。いや、しかし、それは分かるような気がします。なぜなら、彼は大切であれば大切であるほど、その関係を大事にし過ぎてしまうようなところがありましたからな」


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