浮遊戦艦の中で㉓


「何なんだよ、おい……。これが過去の俺たちの記憶を基にして作られただけの世界だってのか? こんなにリアルな感覚があるってのによ! この感覚自体が過去の記憶を基にした偽りの世界だってのか? それじゃ、俺ァ、俺ァ……」

「そうよ。これはあなた達、この時代を生きてきた人たちが現実に経験してその目で見てきた世界なのよ。その相互的な記憶を、浮遊戦艦にある巨大な人工知能がすべてを精査して、より現実を忠実に再現させたのよ」

「じゃ、じゃあよ……。あのミリィの屈託のない優しい笑顔もあの温かみのある肌の感触も、フェルやナーニャが俺に飛びつい来て腕の中ではしゃぎまわる、あのぴちぴちの獲れたての魚みてえな感触も、これも過去の現実にあった事であって、もう今現在にある感覚ではないってことなのか……?」

「ええ、そういうことになるわね。特にあなたのような、非常に感覚に優れた人にとっては尚更それがより忠実に再現されているはずよ。他の人たちとは段違いでね。ここの巨大な人工知能のなんか必要としないぐらい……」

「な、何!? 巨大人工知能の主観的な補正だと? それはどういうことだ!? 何なんだそれは?」

 正太郎は、その言葉に異様に反応した。どうにも語句が引っかかるのだ。

「フフッ、ようやくあなたらしくなって来たわね、のショウタロウ・ハザマ。そこに感覚的に反応するなんて、やっぱり自然派ネイチャーの象徴とまで呼ばれたあなたらしいわ」

「背骨折り? 何だそれは? もしかして俺ァ、未来ではプロレスラーかなんかになっているのか?」

「そうじゃないわよ。確かにプロレスラーも過酷なお仕事だけど、あなたはそれよりももっと激しくて過酷な立場にあったわ。そう、本当に命を懸けるような立場に」

「お、俺が……この俺がそんなことをするってのか?」

「そうよ。ねえ、ここまで来てもまだ思い出さない? あなたは機械支配による画一的な統治や、身体の一部を強制的に機械化させる政策に反旗をひるがえして戦ったレジスタンスの中心人物の一人だった。そんなあなただからこそ、今の言葉に反応したのではなくて? 巨大人工知能の主観的な補正という言葉に?」



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