浮遊戦艦の中で⑮
正太郎は、慎重に奥へ奥へと進んだ。しかし、足を進める度に、あえて照明のスイッチに手を触れないでいた。
もし、これが当初の考え通り、正太郎の命を狙う暴漢の
そして、もしこれがまさかの
「しょ、正直、俺だって初めて見るもんは怖ぇさ……。だがよ、何事も経験さね。どんなつまらねえでも、経験さえもコツコツと積み重ねれば、どんな嫌なことだって、いつの間にか慣れっこになっちまうって寸法よう……」
正太郎はそうして今まで生きてきたのだ。元来、彼は本当のところ、周囲の者が思うほど心臓に毛の生えた性格ではない。しかし、そうやって経験を積み重ねることによって、彼は破格の度胸といったものを手に入れたのだ。
(さあ、来るなら来い! 俺ァ、何が出たってそれを受け止めてやる。こんなシチュエーションも人生の余興の一つさ……)
思いつつ、これが彼のやせ我慢であることを自覚する。
正太郎は足音一つ立てずに、わずか三メートルにも満たない短い廊下を、ゆっくりと時間を掛けて歩んだ。息音を立てるどころか、その間、気配を消すため呼吸さえも止めている。相手の息遣いをくみ取るためには、自分が生物以外の何物かに成りすます必要がある。
(俺ァ今の瞬間、この部屋の空間に漂う一塵のホコリ……。それ以上でもそれ以下でもない……)
自分に即興で暗示をかけ、相手に自分の動きが悟られぬようにする。これも、彼の師であるゲネック・アルサンダールの教えを基にしたものである。
正太郎の掌は、汗でぐっしょりと濡れていた。好奇心が先を進ませようとするが、無意識の本能がそれを嫌でも制そうとする。しかしここまで来れば、彼に戻る手はない。自らの未知に立ち向かうだけだ。
そろそろ、彼の息が限界の域に達しようとした、その時であった――
「早く目覚めるのよ……ショウタロウ・ハザマ……」
何と、いきなり女の声が彼の背後から聞こえて来た。
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