フォール・アシッド・オー59


「はっはっは! 貴様のようなぼんくらには分かるまい。この俺たちの技を!! 元々、力押しでしかなく、機械技術にばかり頼っている貴様のような輩にはな! 俺たちは機械になぞ頼らなくとも、心の奥底で繋がっている。事前に打ち合わせなどせずとも、互いが何をすべきか理解しているのだ!」

「な、なんだと!? ば、馬鹿な……。時代遅れの技術しか持たねえテメエらに、この俺の身体が……!?」

 二分の一のサムライの右肘に亀裂が入っていた。黒くて頑強な鎧にまとわれた内部から、黒く酸化した油がしたたり落ちて来る。

「それでは、いくら身体を変幻自在に分離させることが出来る貴様とて、多少の痛手は否めなかろう。俺の伴侶のクリスの投げ苦無はただの鉄の塊ではない。その突き刺さった場所から情報伝達ナノマシンを注ぎ込み、そこから貴様の隠された事実を外部に送信できる仕組みだ。さあ、観念するのだ。その暗黒の鎧の向こう側に閉じ込められている怪しい事実をひけらかす時間が来たのだ!!」

 デュバラは、そう言ってクリスティーナに目配せをするとニヤリと笑う。クリスティーナは頷き、ベルトの辺りに携えていたコンパクト端末を開いて、対象から発信される情報に目をやる。

 すると、

「デュ、デューク!! ここから、とんでもないことが分かったわ。この二分の一のサムライという男は……!!」

 彼女がそう言った瞬間、彼女の端末が弾け飛ぶ。クリスティーナは自身は無事だったが、よほどの衝撃に目がくらみ、体がしびれ、その場に立っていられぬほどに身体が揺さぶられた。

「だ、大丈夫か、クリス!?」

「え、ええ……大丈夫よ、デューク。お腹の赤ちゃんも、私自身も……」

 デュバラはそれを聞いて、ホッと胸をなでおろした。いかにクリスティーナが忍術を会得していても、今の攻撃を見切れるものではない。しかし、そこでクリスティーナは気を失った。二分の一のサムライの秘密を知ることが出来たにもかかわらず、そこで情報は一旦途切れた。

「フフフ……。まったく厄介なお嬢さんだぜ。しかしよ、俺のこの正体を知ったとなりゃ、それは死あるのみだぜ。次はテメエら三人もろとも地獄に送ってやる!!」

 二分の一のサムライは大刀を肩に担ぎこんでほくそ笑んだ。どういう仕掛けかは理解できないが、彼にはまだこのような隠し玉の武器が内蔵されているらしい。何も動作をせずとも、彼女に一瞬にして攻撃を仕掛けてきたのだ。彼の底知れぬ力に、さすがのデュバラですら額に汗する。




 

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