フォール・アシッド・オー53



 二分の一のサムライは言うや、黒ずくめの鎧の仮面を無造作に剥いだ。すると、そこから現れたのは、

「う、嘘……!? ほ、本当に羽間さん……!?」

 小紋は余りの衝撃に固まってしまった。全身に今まで感じたこともない電流が駆け抜け、呼吸さえも忘れる程に意識が遠のいてしまった。

 それはかたわらで様子を見守っていたデュバラもクリスティーナも同様であった。余りの衝撃に三人は言葉を失くし、ただ茫然とその場に立ち尽くすしかなかった。

「ほら、俺ァ、ハザマ・ショウタロウだぞ。あの七年前のヴェルデムンドの戦乱で活躍した天才兵士ハザマ・ショウタロウだぞ!!」

 二分の一のサムライはニヤケつつ、茫然自失の小紋に近寄って来た。

 小紋が信じられぬのも無理はない。確かにその顔は、鳴子沢小紋が良く知る羽間正太郎そのものであったからだ。

 羽間正太郎は、一見して優男やさおとこのような顔立ちである。しかしながら、彼は幾度となく困難を乗り切って来たという自信に満ちあふれた逞しい表情をしており、そして時に、相手の感情さえも見透かしてしまうのではないかというほどの奥深い眼差しをしている。

 そこに居る仮面を剥いだ男は彼女のよく知る羽間正太郎の表情そのものであり、どれを取っても正真正銘、羽間正太郎のものであった。

「そ、そんな……!! 二分の一のサムライが羽間さんだったなんて……。嘘だ! そんなの嘘だ!!」

「嘘なものか。俺ァ、正真正銘のれっきとしたハザマ・ショウタロウだ。いや、正真正銘のハザマ・ショウタロウモデルの最新版とでも言うべきか」

「ハザマ・ショウタロウモデル……?」

「ああ、最新版の高性能ハザマ・ショウタロウモデルだ。俺ァ、このために目の飛び出るような大金を貯めて、ようやくこの力を手に入れたんだ。この気持ち、テメエらのような五体満足の何不自由無い生活を送って来たエリート共には分らねえ心境だろうがな」

「な、何言ってるの、あなた……? 何、変なこと言ってるの……?」

「へへっ、何も変なことじゃねえだろう。俺ァただ、あの伝説にもなってる天才兵士そのものになったんだ。性格も力も全てコピーしてな。それで学校の授業でも習ったように、奴の真似をしていつかはこの世界を俺の思うように変えてやるって寸法なんだ。それが俺の子供の頃からの夢だったんだ」

「な、何……!! 何言ってるの、この人……!?」

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