フォール・アシッド・オー㉜


 無論、デュバラとて並大抵の暗殺者ではない。その胸の内は小紋と同様であった。

(むう、さすがにあ奴の微動だにせぬ構えは不自然だ。もし、この俺があ奴と同じ立場であったなら、逆に相手側から攻め入れられた時がチャンスと考える。なぜなら、そこで相手側に微妙な隙が生まれるからだ。攻め入った方は攻め入ることに集中し、少なくとも防御に気が回らなくなる。確かに〝攻撃は最大の防御〟などという言葉はあるが、あれはこちら側が怒涛の攻撃を仕掛けることに因って、相手側に攻め入るだけの心の余裕を生ませない為の戦術なのだ。だが今はそれに当てはまらない……。なぜなら相手はあの二分の一のサムライだからだ。あ奴ほどの男ともなれば、小紋殿のああいった攻めぐらいで心を委縮させてしまう程器量は小さくないであろう。ともなれば、この俺が攻め入るタイミングというものがかなめとなって来る。しかしそうなれば、間違いなく攻撃を仕掛ける初動を見抜かれてしまうと奴の思う壺になる……。つまり、ここは相手に本攻撃と勘違いさせるような虚勢ブラフを何度か打つ必要があるということだ。きっと小紋殿の先ほどの瞳の動きは、間違いなくそういった意図を含んだものなのであろう……)

 デュバラ・デフーの身体には、百戦錬磨の暗殺者たる血が根付いている。目的を遂行し、自らを生き残らせるためのケーススタディがこれでもかというぐらいに刷り込まれている。このように逼迫ひっぱくした状況であっても、自然に相手の意図を察知するぐらいの処世術は心得ている。

(なれば……!!)

 デュバラは反撃に出た。無論、この攻撃は本攻撃を仕掛けるための虚勢フェイクであって、これを外したからと言って今までのように一喜一憂するものではない。

(しかし……!! だからと言って、手加減してしまえばそれは虚勢ブラフとはなり得ん!!)

 彼は翼を大きく広げると、その上部から数多あまたの光輪を振り絞った。その光輪は宙に曼荼羅マンダラを描くように幾何学的な広がりを見せ、彼の背部で激しい回転をする。

(これは俺が融合種ハイブリッダーとなってから編み出した技……六道邪神烈波りくどうじゃしんれっぱだ!!)


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