フォール・アシッド・オー㉖


 二分の一のサムライはさらに笑みを浮かべた。

 これは余りにも御挨拶な話である。今の今までのこの男の戦いぶりは、どうやら本気ではなかったらしい。

(こ、この!! 人を食った無茶苦茶な奴め……!!)

 デュバラは、融合種ハイブリッダーへの変身を終えるとすぐに、天にも届きそうなほど立派な翼から、光り輝く鋭いリングを撃ち放った。その放たれた光輪は白く輝くエネルギーを纏い、音もなく二分の一のサムライの喉元目掛けて迫り寄る。しかし、

「あらよっと!!」

 二分の一のサムライは、その腕の中に光る大刀を八の字に描いてそれらを容易にはねのけてしまう。

(う、うぬう……!! 予期していたとはいえ、こうもあっさりとかわされてしまうと……)

 デュバラの脳裏に、あのブラフマデージャでの最悪な出来事がぎった。あの時は、六対一の数的優位性も活かせず、暗殺を仕掛けたこちら側の敗北に終わった。それでも彼らは、羽間正太郎の命を絶つことは出来なくとも、その暗殺の過程の中でしばしば彼を追い詰めることが出来ていた。

(しかしこれは何だ!? 今回はまるで歯が立たぬではないか!?)

 それは冷静なデュバラならではの達観であった。

 いかに他の生命体との融合を経ても、根源的な感覚の差を詰めることは出来ない。そんな致命的な劣勢から抜け出せぬジレンマは並大抵の苦しさではない。

(この俺の考えが甘かったのか? しかし、そんな悠長な考えに身を委ねている暇などない。俺には守らねばならぬ命が控えているのだ……)

 デュバラは身を引き締めると、再び攻撃を開始する。

(初手が通じなんだら、組み合わせでどうだ!!)

 彼はまたもや翼から光輪を撃ち続けるや、その勢いに乗って特攻を掛けた。先手の二段構え攻撃である。

 融合種ハイブリッダー変化へんげした肉体は生身の体のその比ではなく、放たれた光輪よりも先に相手まで辿り着く。

「隙あり!!」

 時間差となった攻撃は二分の一のサムライの視覚を優にだまし、先に放たれた光輪に気を取られた極わずかな瞬間に拳を突き出したのだ。

「うぐうっ……!!」

 案の定、二分の一のサムライは先に放たれた光輪を無意識に目で追っていたためか、コンマ数ミリ秒の遅れがあった。生憎あいにく、デュバラの突き出した拳はクリーンヒットとはならなかったが、二分の一のサムライの顎の辺りをかすめ、その衝撃と風圧で彼は独楽こまのようにぐるぐると何度も回転しながら壁に激突した。

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