フォール・アシッド・オー⑰


「そうだ、いじめ甲斐だよ。キミたちは考えたことがあるかね? 生まれながらにして不憫な生活を送る者たちの気持ちを」

「う、生まれながらにして不憫な人たちですって?」

 クリスティーナは、意外な問いに戸惑いを見せる。

 しかし、大男はそんな彼女の表情すら気にせず、

「そうだ。キミも、そしてその隣に居る小さな女も、そしてさらにその前に居る腕の立つ異国の男も……。どうせキミたちは、身体を機械に換えずとも、そして容姿すらそのままの姿でここまで五体満足に生きて来られたのであろう?」

「え、ええ……それはそうだけれど」

 クリスティーナがたどたどしく答えると、

「そうやって五体満足に生きて来た連中ってのは、どうせ何の苦労も無しにその優越感に浸って生きて来たのだろうよ。そこに居るキミたち三人は、タイプは違えど揃いも揃って美男や美女ばかり……。その容姿、その美しい顔。その美しい仕草。精悍な顔立ち。そして均整の取れたスタイル。さらにそこから醸し出される人を惹きつける情動。それは皆、遺伝子レベルの範疇によって決められた生まれ持っての優勢事項なのだ。そんな苦労知らずな連中になど、我らの心など理解出来るはずがない。我々のように容姿を変え、機械の身体を手に入れてやっとたどり着いたこの境地を、キミたちのような傲慢な輩に踏みにじられて怒りを覚えている!!」

 側近の大男は、大理石のような重たい右足をずしんと床に叩き付けてめり込ませた。どうやらあの足は、全てが何らかの武器であるらしい。

 クリスティーナは言われて、それでも言い返す。

「馬鹿じゃないの!? あなたそういう理由で世の中に恨みを晴らそうとしていたの? それで私たちを殺そうというの? そんなの間違っているに決まっているじゃない!! それは逆偏見というものよ!! 私たちがもし、あなた達の言う通りの外見なんかだったとしても、あなた方の思うように何の苦労も無しに生きて来たわけではないわ!! 大体、それは褒めているの? それとも貶しているの!?」

「うぬぬ……。だからキミたちは傲慢だというのだ!! どうしてそう上から目線でものを語ろうとする? それも生まれてこのかた、何の苦労も劣等感も無しに生きて来た証拠だな。生まれながらのアドバンテージに胡坐あぐらをかいて生きて来たが故の心の暴力でしかない!!」



 


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