フォール・アシッド・オー④
というわけで、小紋、クリスティーナ、デュバラの三人は、デュバラのもう一つの存在である
しかし、不夜城とはよく言ったものだ。このショッキングピンクに彩られた狂った建物はどの時間帯を経ても警戒は厳重である。まして昼間に二人を抱えて潜入するのは無謀だと言える。いくら空の警備が地上より手薄であったとしても、メガセレブリティエリアを守護するレーダーサイトは生きているのだ。
その上、ピンク教団は武闘派として名が知れている。とても人間わざとは思えぬ趣味の悪い触手のような腕を付けて格闘大会を開催してみたり、重機のような機械の腕を取りつけ力を競い合う訳の分からないコンテストをしてみたりと、部外者を威圧する目的のイベントが世間一般に広く知れ渡っているぐらいである。
「まあそんなわけで、つまり狙いは夜ね。夜はさすがに変身後のデュークの目が見えなくなってしまうからかなり不利な条件であるのだけれど、それを補うための秘策があるわ」
「秘策……ですか?」
「ええ、その秘策と言うのはね、私が彼に合図を決めて先導することなの。ええ、心配しなくても大丈夫よ、小紋さん。私たちはこういった時の為に、彼の身体に指先で刺激を与えて方向を指示する訓練をして来たのだから。その辺は完璧だわ」
クリスティーナは言うと、まだ変身前のデュバラの鋼のように黒光りする精悍な胸板に人差し指を添えて優しく撫でる。
「そ、それは凄いですね、クリスさん……。そうなると、クリスさんがお留守番てなわけにはいかないね、デュバラさん」
「ああ、そういうことだ。俺としては彼女を危険な目に遭わせたくはないのだが、この意思疎通は俺と彼女の間にしか出来ん芸当だ。小紋殿には悪いが、小紋殿はこのゴンドラに乗ってもらってこの俺が吊り下げて運ぶ。ああ大丈夫だ。命に代えてもゴンドラはこの俺が守り抜く。そしてクリスは腕に抱えて俺の目になってもらう」
とデュバラは真剣な表情で語るのだが、彼とクリスティーナのイチャイチャの止まる様子がない。彼らは至って真面目な表情で意思疎通の指先確認をしているようだが、はたから見れば、少し能天気な男女が二人だけの世界に浸り込んでいるようにしか目に映らない。
それでも小紋は喉元まで出掛かった言葉を押し込んだ。こんなこと今に始まった事ではない。ここに至るまで三年の月日が流れようと、二人の熱い愛のやり取りは留まる事を知らないのだ。
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