フォール・アシッド・オー②
デュバラ・デフーは、暗殺集団〝黄金の円月輪〟の中でも、五指に入るほどの腕を持った実力者であった。
しかし、そんな彼が当時開発途中だった〝珠玉の繭玉〟を勝手に持ち出し、自らのプライドを賭け組織を裏切ってまで鳴子沢小紋を討ち果たそうとした経緯はもう過去の話である。彼は、クリスティーナとの
「クリス、俺はな。キミに無事に元気な赤ん坊を産んで欲しいのだ。せっかく授かった大事な命なのだ。数々の暗殺を手掛け、ここにいる小紋殿さえもこの手に掛けようとしていたこの俺だからな……。しかし、それがかなり身勝手な思いだということはこの俺も承知している。しかしだな、今のこの俺の気持ちだけはどうしようもないぐらい身勝手だ。俺の遺伝子を受け継いでくれる赤子の事で頭が一杯なのだ。そして、それを引き受けてくれるキミが愛おしくてたまらないのだ。それを理解してくれ!!」
小紋は、デュバラのその言葉を横で聞いていて、思わず顔が真っ赤になってしまう。
デュバラとクリスティーナのやり取りは、いつも率直な気持ちが充満しており、とりもなおさず、いかにも情熱的な言動の数々で占められている。そんな二人の様子を間近で見ている小紋が当てられないわけがない。
「ちょ、ちょっと……そばに小紋さんがいるのよ。そういうの、ここではよしてよ。恥ずかしいから……」
デュバラは、両腕でクリスティーナの肩をがっちりと掴み精悍な眼差しを彼女に送り付けている。クリスティーナは顔を真っ赤にして小紋に気遣う素振りさえするが、それこそ満更な雰囲気ではない。
「い、いいえ、いいんですよう、クリスさん。もう僕は慣れてますから……。何なら少し席を外しましょうか?」
冗談半分に小紋がそっと席を離れようとすると、
「ちょっと待って小紋さん! それにデュークったら、いつまでベタベタしてくっついているのよう!! 少しは小紋さんを気遣いなさいな!!」
そう言ってクリスティーナは、もう抱きしめて離そうとしないデュバラを抑制しようと必死である。
小紋は、こうやっていつも情熱的に愛を表現している二人を羨ましく思っていた。
(あれから三年……。僕が羽間さんと会えなくなってからこれだけの月日が流れちゃったんだなあ。どうしたら会えるのかなあ。どうやったらあの世界に帰れるのかなあ……)
幸せな二人を見て微笑ましくなる反面、自分のこれからを考えるとどこか不安になる小紋である。
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