不毛の街㊾


 獅子は生まれながらにして獅子であり、虎は一生虎として人生を送るのである。

 羽間正太郎は、生まれながらにして獅子であり、虎の強さを感じさせる類い稀な男であった。

 そんな猛獣の様相を呈している彼ではあるが、兎である小紋の目からして、彼は不思議と他の猛獣たちとは違って見えていた。それが彼独特の優しさの一面なのである。

 それは鳴子沢大膳という樋熊のような獰猛さを持ち得ながら、不器用に、そして実直に生きる父親の背中を見て育ったが故の彼女らしい見解なのだ。

「ねえ、小紋さん、クリスさん。お二人には悪いのだけれど、私たちはあなた方をいきなり信用するわけにはいかないわ。だから、結論から言うと結果を見せて欲しいの」

 ヴィクトリアは、ガラス球の細い眼差しを鋭く投げかけて来る。

「結果……ですか?」

 小紋が、そらきたとばかりに怪訝な表情で返すと、

「ええ、私たちの組織は結果が全てなの。あなたのお兄様のように結果を出してくれなければ、あなた方に私たちの組織の一員として受け入れられないわ。これはどんな事があっても例外は無しよ」

「は、はあ……」

 小紋は少しばかり呆れかえる。いつ自分たちが組織の一員になると言ったものだろうか。

「いいかしら? 世の中は色々な矛盾を抱えているわ。ほら、近代から沢山の思想主義でも、理想ばかり高くって、実際にやってみると無理に近い事だってあるじゃない? そういうのは私たちの考えには反するのよ。つまり、どんなに理想が高くたって、どんなに崇高な思想があったって、そこに結果が伴わなければ本当に未来ある姿を手にしたとは言えないわ。だから私たちの組織は、仲間となるちぎりを交わした証しとして、こちらが用意した結果を残して欲しいのよ。それはこの組織の掟でもあるの」

 ヴィクトリアは、もっとも至極な調子で言葉を発する。彼女のガラス球の瞳も相まって、どこか不思議な説得力が増す。

「それで、その結果と言うのは……?」 

 横で会話を窺っていたクリスティーナがとても待ちきれず、間を開けない感覚で聞くと、

「うふふ、そうね。そうやって心がはやってしまうのも仕方ない事ね、クリスティーナさん。それで私からのお題だけれど、あなた方には一人の男をこの世から消し去って欲しいの」

「消し去る……? それってつまり、暗殺ってことですか?」

 クリスティーナが飛び出るような瞳で聞き返すと、

「ええ、そうよ。あなた方のような元エージェントなら造作も無い事でしょう?」

 またヴィクトリアの瞳が冷たく輝く。

「で、でも……!! 暗殺なんて、僕たちには!? それに、一体だれが狙いだと言うんですか!?」

 小紋が怒号にも似た声で彼女を問い質すと、

「その相手はね、……そう呼ばれている男――。戦術にも秀でた世界桃色マカロニ教団の凄腕の用心棒よ」



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