不毛の街㉞

「それでフーちゃん。キミがここにやって来た目的とは何なんだい?」

 森の中に日が差し始めると、正太郎と熱い抱擁を一晩中交わし終えたフドウバナは、はだけた衣服で前だけを隠しつつ、草葉の陰にいそいそと逃げ込んで行く。

「ちょっとお待ちになって……。たった今、身なりを整えて準備いたしますで……」

「いいよ、そのままの格好で。どうせまだ時間はたっぷりとあるんだ。昼頃まで戦いの契りを交わしまくるというのもオツなものだぜ? どのみち、ここに並んだ長蛇の列がはけるのはあと三日ぐらいはかかるんだろうし」

「そ、それはそうですけど、あなた様はもう十分、おつりが出るぐらい身共と戦いの契りを交わしたはずです。それに、もうこれでは、身共の体が到底もちませぬ……」

 機械と融合したフドウバナでも、正太郎の壮絶な体力にはお手上げのようである。

「ちぇっ、なんでえ。キミみてえな素敵な女性がお相手なら、俺ァ、まだまだ宵の口なんだけどなあ」

「お言葉は大変嬉しい限りなのですが、身共にもあれこれ都合というものが……」

「都合だって? そりゃまたどういうこったい」

「はい……。今ご説明いたしますので、少しだけお待ちいただきませぬか」

 フドウバナはそう言うが、なかなか着替えが終わろうとしない。なにせ、隠密の精鋭とは言え、彼女も人の子である。一晩中正太郎に付き合わされたお陰で、どうも腰砕けになり、立っているのがやっとらしい。

 そのスラリとした美しい肢体は、等身大もある木の葉の向こうで陰になって正太郎からは直接は見えない。だが日の光の悪戯で陰影が映り、彼女の仕草が逐一手に取るように解かる。

 正太郎は、そんな彼女の姿を眺めつつ、

「フーちゃんはさあ、この俺を呼びつけるために、わざと大声を出してあの列から出て言ったんだろう?」

 すると、

「やはり気づかかれておられましたか。流石はヴェルデムンドの背骨折り……羽間正太郎様ですね。あの時身共は、あなた様がここにおられることを偶然知ることが出来、そこであなた様を身共たちの目的にお誘いすることを決断いたしました。だから身共はあのような行動に出たのです」

 彼女は言いつつ、たわわに実った乳房を丁寧にブラジャーに押し込む。

 そんな姿を横目に見つつ、

「身共たち……? てえことは、やっぱりキミは、仲間と行動しているということか?」

「ええ……」

 フドウバナは、ショーツを穿き終えたところで一旦言葉を切ると、

「多分、生き残っているのは身共……ただ一人だと思われます……」

 そう言ってその場にヘタリとしゃがみ込む。




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