不毛の街㉓



 ※※※


 あれから羽間正太郎は、無事に巨大浮遊戦艦に乗り込むことが出来た。

 まだこの森の辺りは夜が明けきらず、あらゆる生物の数多の吐息が不気味な静けさの中に溶け込んでいる。

(見守っていてくれよ、の……。お前の宿願は、必ずこの俺が果たしてやる……)

 このような夜中であっても、各方面から輸送車両が続々と鼻先を連ね集まって来る。その数、ざっと数えただけでも数百台はあるだろう。

 一台に二百名ほどが乗れることから、この場所には一万人規模で人々が集まっていることになる。

(それだけこの世界に不平不満を抱えた連中が居るってこった。まあ、あれだけ核ミサイルのドンパチやら、勇斗と早雲ちゃんのいざこざを見せられちまったら、それも仕方のねえことなのだがよ……)

 あれはこの世界に天変地異が巻き起こったかのような凄まじい様相を呈していた。あの状況を目の当たりにして不満を抱かないようなら、それこそ本当に心臓に毛が生えているのかもしれない。

 あの大気をも揺るがす地響きと、辺りを一瞬にして白光に溶かしてしまう熱量――。

 そんなこの世の物とも思えぬ連続攻撃を目の当たりにして恐怖を抱かぬ者など居ない。

(どういう理由があって地球の連中に嫌われちまったものやら……。これが本当にあの鈴木源太郎博士の宣戦布告によるものだとしたら、益々意味が分からねえ。一体今の地球はどうなっちまっているのだろう……?)

 羽間正太郎はまだ知らない。小紋やクリスティーナが徒党を組んで抵抗運動を試みていることを。そして、浮遊戦艦から聞こえて来た小紋の声が偽物であることを。

(先ずは、この巨大戦艦が何の目的でここにやって来たのかを探らねえとな。これだけの人を集めるだけ集めといて、何も目的がねえってことはさすがにねえだろうからな)

 正太郎は、一万人以上がそぞろ歩く人混みに紛れた。しかし、これで敵側が正太郎を察知していないわけがない。なぜなら、わざわざ小紋の声を利用してまで挑発してきたのだから。

 そこまで特定の人物の声を利用してきたのであれば、おのずと正太郎がここに乗り込んでくることを予測しているのに違いない。

(今回は変装も何もしちゃいねえ。機械頭を容易に騙すことの出来る簡易モジュールさえ持って来てねえ。さあ、どう出るよ? この俺を消しかけて来た張本人さんよ……)




 

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