不毛の街⑰



「兄さん、それどういうこと? もしかして帰れるの? その言い方だと、僕たちもあのヴェルデムンド世界へ帰れる手立てがあるというの!?」

 小紋は、ここが公衆の面前であるにもかかわらず絶叫した。駅前公園をそぞろ歩く人々は一様に目を丸くし、声の発生源に目を向ける。

 ところがその瞬間、慌てたクリスティーナが小紋の口を押さえ、小さな身体を抱きかかえてその場から風のように去って行く。

「だ、ダメよ、小紋さん!! いくらなんだって、こんな場所でああいった事を大声で叫んでしまっては……!!」

 流石さすが、クリスティーナは元女王親衛隊の隠密である。彼女は、兄春馬の言葉尻をうかがった時点で、小紋があのように反応してしまうことを予測した。その上で、彼女がまるで今までそこに居なかったかのように身を隠させたのである。

「ご、ごめんなさい、クリスさん……。でも……」

「分かっているわ、小紋さん。そういったあなたの気持ちぐらい。私たちは、この二年半もの間、あっちの世界に帰れる手立てを模索したり、あらゆる機関や組織からの情報を集めたりしていた。だけど……」

「だけど、それはいつも無駄足だった。どんなに僕が羽間さんやマリダに会いに行きたくたって、どんなに言葉一つだけでも交わしたくたって、それは叶わなかったんだもん……」

「今の地球上には、真実よりもガセネタの方が広く横行しているわ。こっちでも始まった三次元ネットワーク通信の中にだって、虚偽の事実や、都市伝説のような創作の域を超えないもっともらしい情報ばかりが蔓延しているのだから……」

「だから僕たちは〝人間レジスタンス同盟〟という組織を作った。そこまでして真実の情報を得ようとここまでやって来たんだよね……」

 小紋の肩が小刻みに震えていた。クリスティーナは、この二年半もの間、小紋のこの苦悩を傍でずっと支えて来たのだ。彼女が敏感に反応してしまう情報は熟知しているのだ。

「それがまさか、あなたの実のお兄さんの口から出てしまうとはね。これは偶然や奇遇というより、必然なのかしら……」

「う、うん……」

「それにしても、私ったら、春馬さんのことを思わずあんな所に置いて来ちゃった。もう一度戻って早く探しに行かなくちゃ……」

 クリスティーナが、小紋の肩をさすりながらキョロキョロと辺りを窺うと、

「いやあ、赤髪の美しい人よ。あなたはさすがに凄いですな。とても私の足では追いつけませんよ」

 なんと、鳴子沢春馬が小走りに二人の背中目掛けて追って来るではないか。

「えっ、どうやって!? なぜ春馬さんに私たちの居場所が分かったの!?」


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