不毛の街⑭



「あーさて……キミたちは、この地球上がなぜ、機械人間の楽園と呼ばれるまでになってしまったかはご存知かな?」

 鳴子沢春馬は、一度コホンと咳をすると、まるで壇上に上がった講師のように説明口調になった。

「そんなこと、僕たちが知らないわけないじゃない。要するに、僕やクリスさんがこっちの世界に戻って来たばっかりの頃に、世界中に蔓延した〝ヴェルデムンド・ウィルス〟がパンデミックを起こしたことからが発端になって居ることぐらいさあ……」

 小紋は、まるで子供時代さながらの口調で言い返す。

「フフッ、それはその通りだよ、小紋。あの〝ヴェルデムンド・ウィルス〟と呼ばれるにも似た症状の出る病原菌が、この地球上を席巻したことで地球に染む人々はパニックを起こした。なぜなら、一旦そのウィルスに感染して高熱を出すと、その後にどんなに熱が下がっても、その〝おたふく症状〟だけは治まらんのだからな」

「確かにあれは悲惨だったね。僕たちのように、に一定期間住んでいた人たちが、どんなにあのウィルスに感染してもそこまで酷い後遺症は残らなかったけど、ずっと地球に住んでいる人たちにはそれが100パーセント残っちゃうって言うんだから……」

 脳裏に刻まれた過去の記憶を辿りながら、小紋はひどく切ない思いで言葉を切る。すると、

「そうね。あれでさすがに、小紋さんのお姉さんの風華さんや、彼女の旦那さんのように、致し方なく体の一部を機械に換えようとする動きが世界中に巻き起こったのよ」

 クリスティーナが切なげに言葉を挟む。

 彼女が言うように、何も今現在、体を機械化した人々の全てが、自らの意思で進んでサイボーグ化の人生を歩んでいるわけではない。その大半以下の人々は、近年に巻き起こったウィルスの後遺症とも言うべき〝おたふく症状〟を取り払うために機械化せざるを得なかったのだ。

 そのおたふく症状のとは言えど、何も顔の輪郭を変えてしまうだけがその症状ではない。それには多大な個人差があり、人によっては足、人によっては腕、人によっては腹や背中と言った場所が異様に膨れ上がり、どんなに熱が下がったとしてもそれが収まらないのだ。

 まして、それを切開手術などしても、やがてその部位が再び山を成したように膨れ上がり、以前にも増して醜い肉塊が皮膚の奥底から人体を席巻してしまう。更に、その箇所を触ると痛みを伴う為、どうにもそのまま放置しておくことが出来ない。

 どうやら、皮膚内部からリンパ腺辺りまでの遺伝子構造そのものを狂わせてしまっているということらしいのだ。

「あれで風華お姉ちゃんたちも〝ミックス〟にならざるを得なかったのよ。ねえ、知ってた? 春馬兄さん」


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