不毛の街⑤
無論、その視線の先には投げ終えた格好でキッと睨み返す小紋の姿がある。
「貴様か!? 貴様がやったのか、この小娘え!! 俺様の大事な腕を!! この俺が、崇高なる〝世界桃色マカロニ教〟の上級信者と知っての所業かあ!!」
頭に血を登らせた大男は、他の乗客など構わず突き飛ばし、小紋目掛けてのっしのっしと歩み寄って来る。
大男は、その見た目通りの巨体が故に、他の乗客らをことごとく張り倒して突き進む。あわれ、倒された乗客らは重なり合って壁に頭をぶつけ、そこで目を回したかと思うと一様に補助脳の機能にバグを引き起こし、腕や足などが勝手にグルグルと回ってしまって止まらなくなってしまう。
それすらも意に介さず大男は小紋の目の前に立ちはだかると、
「小癪な真似をする小娘めえ! 貴様のようなチビ女など、神聖なマカロニ神の使徒たる俺様のこの手で、一思いにひねり潰してくれるわ!!」
ヒグマのような雄叫びを上げるや、小紋に向かって肩口から生えた幾本もの細腕で手刀を作る。さらにそれを矢のように小紋目掛けて投げつけ、八つ裂きにしようとするのだが、
「そんなへっぽこ
小紋は言うや、自らが被っていた薄桃色のベールを男の顔面に投げつけ、
「えいっ!!」
という掛け声と共に軽々と大男の頭付近まで跳躍したかと思いきや、
「やあっ!!」
と、壁を蹴り込んで体全体を
「たあっ!!」
という気合い声と共に右足底で大男の顔面を蹴り飛ばした。
「ぐ、ぐう……」
刹那、大男の情けない悲鳴が上がった。大男の顔面に小紋の足先が派手にめり込んだ。と同時に、桃色のベールの表面がじわりとどす黒い液体に染まってゆく。
「あうう……」
大男は言葉にならない悲鳴を残したまま、巨木が切り倒されたかの如く派手な音を立てて冷たい床に沈み込む。
その瞬間――
車内に精霊がまかり通ったかのような激しい沈黙が走った。
まさか、まさかの出来事である。あのクマのような容姿の大男が、一瞬で、それも大男の体躯の数分の一しかない女性に蹴り倒されるなど、誰が予想し得るものだろうか。
「な、なんだ!? どういうことだ!?」
「こ、このっ……!!」
光景を目の当たりにした教団の面々は一様に呆気にとられ、しばらく言葉を発することが出来なかった。だが、ようやく首を振って気を取り戻したかと思うと、
「おのれ、よくもやってくれたな!!」
「我ら〝ロニ教〟に立てつく者は!!」
「神聖な我らの力を持って!!」
「この世界から排除するまでよ!!」
「神に立てつく下賤な小娘めえ!!」
男女の声が入り混じった〝ロニ教〟の集団は、それぞれがそれぞれの独特な動きをしながら小紋目掛けて反撃に出る。
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