神々の旗印214


 そんな若かりし時代の話をする正太郎に、女王マリダ以下、軍の上層部の将校たちの目は真剣だった。

 幻のマッドサイエンティストとまで語り継がれる鈴木源太郎博士との邂逅かいこう。この話は、鈴木源太郎という人物を全くの伝奇や都市伝説の類いと考えていた連中からすれば、有り得ぬほどの青天の霹靂だと言っても過言ではない。

 正太郎は、かの博士に言われたのだという。

わしには常識は通用せんよ――」

 その言葉は、常識という縄張りに考えを蔓延はびこらせていた者たちからすれば、

創作フィクションの世界から現実という世界に突然飛び抜けて来た存在」

 としか考えられない。

 しかし今現在、地球とこのヴェルデムンド世界との間に巻き起こっている非日常的な現象を目の当りにすれば、今の正太郎の証言を無下に信じないわけにはいかないのだ。

「それで貴様は、その後どうしたのだ、羽間少佐?」

 表情こそ冷静沈着を気取っているが、正太郎に問い掛けるウォーレン・剣崎大佐の指先が微かに震えている。

「どうもこうもないぜ、剣崎大佐。今話したように、俺が最初に鈴木源太郎博士と会ったのは、かれこれ十年ちょっと前の話だ。その後、何度か博士に会う機会があったが、博士はその度に姿を変えていた」

「姿を変えていたと言うと、今の貴様が証言した〝適性者〟とやらに引き継いだということか?」

「ああ……。博士は言っていた。どうも最近は〝適性者〟自体の寿命が短くていかん、と。それで……」

「それで? それでどうしたと言うのだ?」

「うむ、それでだな。博士は、いわゆる引き継ぐ対象を増やしたとかなんとか……」

「増やした……だと?」

「そうさ。そりゃあ今までも博士たちは型を貫いてきたわけじゃねえ。必ず一時代に数人程度の予備に〝宝珠〟とやらを引き継がせていた。だが、どういうことか、俺が博士たちと出会った後からは、何だか博士たちの周りに異変が起きて……」

「それで鈴木源太郎という人物は都市伝説の類いに変わり果てた、と?」

「そ、そうだ。そうなんだよ大佐。しかし、何で大佐がそんな話の経緯を知っているんだ? そんな話は、博士と直接会った事のある俺じゃなきゃ知らねえはずなのに?」

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