神々の旗印192


 フェイズウォーカーのサポート人工知能同様、アンドロイドの人工知能も周囲の環境によって性格も考え方も変わって行く。

 それを踏まえた上で、鳴子沢大膳は、マリダを自分の娘である小紋に預け、母性的な愛情を特徴とした成長を遂げさせていたのだ。その相手として鳴子沢小紋という存在は最適なのである。

 小紋は今どき珍しいぐらいに性格の良い可愛らしい女性である。しかし、そんな小紋にも一つ欠けた部分がある。それは、早いうちに母親を亡くしたという喪失感である。

 そんなことから、小紋は少女時代からその可愛らしい見た目とは裏腹に、男勝りのやんちゃな一面を醸し出すようになった。なんと、彼女が今でいう中学校程度の学校を卒業するまでは、柔道や空手、剣道に合気道といった格闘技では敵なしと言った具合で、近隣の男子どもにすら恐れられるほどの数々の武勇伝を残している。

(ホント、男なんてこの世の中で一番くだらない存在……)

 そう思い込んでいた彼女の思春期は、母親と言う存在を身近に感じられない自分への反抗と、いかにも女性的で優しい姉へのコンプレックスがない交ぜになったものであった。

 そんな折に風の噂で知った存在――

 それが〝ヴェルデムンドの背骨折り〟の活躍の姿である。

 当然、彼の名前は公表されていなかったため、羽間正太郎という名を知るのは彼女が当局に入局してからのこととなるが、彼女が自分自身の女の部分を認識するようになったのはこの頃からの事である。

 その一部始終を知っていた彼女の父、鳴子沢大膳は、

「人の役割とは、いかに重要なものか……」

 と、身をもって痛感したのだ。

 早いうちに母親と言う存在を失くしてしまったために欠けてしまった彼女の女性としての心と役割。そして、そんな彼女に女という本来持っているべき部分を目覚めさせた羽間正太郎という存在。

 人は決して一人で成長するものではない。互いに何らかの影響をし合ってその人格が成り立って行くものである。大膳はそれを娘の成長をもって確信したのだ。

 そこで、

「理想の国家元首を作るには、先ず何と言っても全ての民を心から抱き込める優しい心を形成させるべきだ」

 そう言った考えから、大膳は、優秀なアンドロイドを作る事で名の通っていたクラルイン社製のマリダを引き抜いて、それを小紋にあてがった次第である。



 

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