神々の旗印170

 当然、勇斗はそこで歯ぎしりをする。

 彼にとって、力を持つことこそが正義。全ての解決策だと目論んでいたのだから。

 しかし現実は甘くない。たとえ周囲の者たちをも凌ぐ力を手に入れたとしても、それはただの強力な道具を持ったに過ぎない。それを的確に運営して初めて戦略として利用したと言えるのだから。

「とにかく、あなたはまだ心が幼いのです、ユートさん。単なる力を持つだけでは、一時的にハッタリをかますことぐらいしか出来ません。ここにおられるハザマ少佐のように継続的な戦略を企てるには、その力のメリットもデメリットも心得た上で、一つの駒を動かすように長期的に運用しなければならないのです。そして、その駒もたった一つではなく……」

 早雲の戦略レクチャーがまた始まった。これは勇斗と早雲がコンビを組んでいた時から度々見られる光景であった。

 そんな早雲のクドクドとした様子に、

「ええい、うるさい!! うるさいぞ、早雲!! なんで生死を賭けて戦い合っているこの俺が、お前にこんな説教染みたことを言われなくちゃならないんだ!? 馬鹿にするのもいい加減にしろ!!」 

 勇斗は、大剣を右に左に振り回して早雲の言葉をさえぎる。

 彼女は、それを軽いステップをついてトントンとけながら、

「だって、余りにもあなたが弱すぎるものですから。少しアドバイスでもしないと……」

「な、何ヲゥ!? この俺が弱いだと!?」

「そうです。あなたは、この機械頭マシンヘッドのわたしよりも遙かに弱い。だってあなたはいつも一人よがり。相手の動きも、周囲の状況も何も見えていない……」

「そんな訳があるか!! それはおまえが、あの爺さんに奇妙な力を与えられたからだ!! それが証拠に、そこに居る羽間少佐よりも俺は強い!! その男を事実上倒せたんだからな!!」

「それは違います、ユートさん。こちらにいらっしゃるハザマ少佐は、ユートさんになんか負けてはいません!」

「なんだと!?」

「そうです。だって少佐は、この時点でわたしと言う強い味方を得ているのですから。それは長く広い意味で有効な駒を手中に収めていることを意味しているのです。戦略とはそういうものなのです。ね? 少佐!」

 早雲は、構えをしながらその可愛らしい顔を正太郎に向きよってウィンクする。

 正太郎は、そんな余裕ありげな彼女に呆気にとられつつも、

「え、ああ……。その通りだよ早雲ちゃん……」

 冷や汗を流し答える。



 

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