神々の旗印153



 正太郎は一旦身を隠せるほどの穴を見つけ、そこに身を縮めるように退避した。すると、

「な、なんだと……!?」

 彼のその場から目に映った光景は、あの羽の生えた人類もどきが互いの首根っこを引きちぎり合いをし始めた姿である。

 口をポカンと開け、どうにも言葉にならない表情でその様子を見つめる正太郎。彼らの放つ言葉のようなものは解せないが、その激情具合から見て何となくだが分かる。彼ら羽の生えた人類もどきは、敵対する正太郎を倒せない事を腹立たしく思い、互いが互いをののり合って仲間割れを始めたらしいのだ。

 その様子は、戦争を良く知る正太郎の目から見てもさらに生き地獄そのもの。訳の分からない言葉の怒号が頻繁に飛び交い、さらには互いの首根っこを噛んで引きちぎり合い、中にはその肉を食らい合って憎しみを表現する者まで居る。

 そこに他者を気遣ったりねぎらったりする心などない。あるのは際限なく弱い自己を肯定する姿と凄まじい他者否定のみ。100パーセント以上に自己愛に満ちた究極の世界であった。

「なんてえ胸糞の悪ぃ奴らだ……。こいつらには、結局自分しか見えてねえんだ……。自分が生きる事だけで精一杯なんだ……」

 これだけの巨体でありながら、ここに住み着いた人類もどきは自分という存在を肯定されることだけに必死なのである。他者に与えられることだけを望む人類が存在する世界を形成した巨人なのだ。

 だが、今それを理解したところで、彼らの正太郎を憎み切る心が変わるはずもない。彼らを止める手立てなどどこにも転がっていやしないのだ。

「てえことはよ、もしや……。今の地球がこいつらみてえな奴らばかりになっちまってるやもしれん……。何しろこのバケモンは何かを反映して具現化された鏡みてえな物だからな。なあ小紋……。お前は今地球に帰っちまって居るんだろう? 本当にお前は大丈夫なのか……!?」

 正太郎は今まさに、愛弟子であり掛け替えのない存在であった鳴子沢小紋の様子を案じていた。

 あの天真爛漫で自分の心に素直だった彼女が、このような赤い巨人に反映された世界に翻弄されていることを想像してしまうと、どうにも居ても立っても居られなくなる。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る