神々の旗印150


 正太郎の悲痛な叫びが森じゅうに響く。

「アイツら、無茶苦茶だぜ……」

 彼は歯ぎしりをし、コックピットのコンソールパネルを両腕で強く叩いた。

 イーアン・アルジョルジュと、そのサポート人工知能マーキュリー。彼らに死へのためらいは無かった。まるでその行為が当然であるかのように――。

 正太郎は一旦目をつむる。そして、大きくため息をついて両掌で強く頬を叩く。

 目の前にはイーアンらの自爆によって左足を粉砕された赤い巨人が仰向けに倒れ込んでいる。この巨大になり過ぎた体躯では、この大地との重力バランスですぐには立ち上がることは出来ないだろう。いや、粉砕された足が完全再生されない限りもう二度と立ち上がる事はないだろう。

 しかし、それでも赤い巨人は破壊の手を止めようとはしない。この先に居るマドセード達への進軍こそまぬかれたものの、この化け物の両腕によって倒壊される森の甚大な被害は後を絶たない。

 この大地の木々は、この大地と共に生きている。この大地の木々は、そこに住まう動植物に欠かせない循環装置の役割を果たしている。

 地球から移住してきた我々人類も、その自然の摂理を基に最新鋭科学の推移を集めた寄留地クレイドルを建設し、そこで未来永劫暮らして行くことを決意した。

 しかし、その循環装置たる巨木の大群をこうまで破壊し尽くされれば、やがて科学の結晶である寄留地ですら存続は厳しいものとなるであろう。

「こん畜生め!! ここでアイツを止めねえと、俺たちの第二の故郷も台無しになっちまうぜ……」

 正太郎は意を決し、コックピット内にある非常用の白兵戦キットを足元から取り出した。そして、

「アイツらの死は決して無駄にはしねえ……」

 言うや、彼はハッチの強制解除レバーを引き、まだ木片と粉塵が激しく舞い飛ぶ機外に降り立った。

 

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