神々の旗印138


「おい烈!! レールキャノンの狙撃は取りやめだ!! 例の次の手で行く!!」

「え、ええっ!? でも兄貴、レールキャノンで少しでもダメージを与えれば、きっと……」

「いいんだ、烈。この俺の勘があれは使うなと、そう叫ぶんだ。俺にもどういうことか分からねえが、何故だか無性に撃ってはならねえ気がするんだ!!」

 正太郎は言うや、烈風七型の機体を地面に着地させる。そして半壊した巨木の蔭に身を潜ませながら、

「いいか、烈? あの東京の街並みを見て何も感じなかったか? あの赤いフェイズウォーカーと戦う前に、東京から通信が入ったって言ってたよな? てえことはよ、あの憎悪と怨念の塊の化け物が俺たちの故郷の日本に何か関係があるかもしれねえって話だ。いいや、もしかすると日本だけじゃなくて地球の全てに関連することなのかもしれねえ」

「すると兄貴は、ここに起きている大変な出来事が、オイラたちの故郷に原因で起きているとでも言うの?」

「それははっきりとは分からねえ。しかし、あの光景を見せられちゃあ、そうなのかと勘繰っちまうってもんだぜ」

 確かに正太郎の危惧する所は的を射ないではなかった。事実、あの赤いフェイズウォーカーはまだヴェルデムンドという新世界に人類が渡航する前からの記憶が要因で彼のような男に対して怨念を発している。

 そして、地球という惑星での人類の立ち位置は、今や自然の摂理から浮足立った存在として排除されつつある。それが証拠に、今や人類の本拠地として成り立っていた地球人類のほとんどが、ヒューマンチューニング手術を受けたミックスに成り代わろうとしているからだ。

 地球人類は、あの〝お迎え症候群〟の恐怖から完全に立ち直れないでいたのだ。そして、ヴェルデムンドから父の強い意向で強制送還されてしまった鳴子沢小紋ですら、そのヒューマンチューニング手術の渦中で必死に抵抗を続けていたのだ。

 彼女は今現在、進化した姿のデュバラ・デフーとクリスティーナ・浪野らと徒党を組み、五年前のヴェルデムンドの戦乱の時のように必死でヒューマンチューニング手術強制の波に抵抗を続けている。

 しかし、ヴェルデムンドの世界から一度も帰郷することがない正太郎には、そんな彼女の苦労など知る由もない。

 だが、それが具体的に分からずとも、正太郎に小紋らのそういった意思が何となく無意識下に伝わっているらしいのだ。それが人間という物なのだ。


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