神々の旗印58


「なんだと!? そんな思い上がり……!!」

 勇斗は右旋回にひるがえって一閃! 傍らに位置していた正太郎機を横殴りにした。が、またそれも空振り。正太郎機は、黒塚機と相対したように左旋回を行うと、自らの特殊警棒で勇斗機の警棒の先を軽くあしらったのだ。

 その瞬間、勇斗機は旋回する力に余力を与えられ、まるで制御不能な独楽こまのように地面に叩きつけられる。

「甘い甘い! お前、あん時のイーアンに教わった教訓を忘れたのか? 物がぶつかる位置の最大適性値を考えろ! 俺ァ、お前の警棒の先っちょに軽く触れただけなんだ! 当たる場所もイメージ出来ずに矢鱈目ったら武器を振り回せば、自ずとそうなる! 痛い目に遭いたくないんだったら、痛い目に遭いたくないように身体で覚えろ! テメエが痛く感じるのは誰のせいでもねえ! テメエのせいだ! テメエが痛くなくなりたいのなら、テメエがテメエで道を拓け!! 他人だとか運命だとか、そういったもののせいにするのはもってのほかだ!!」

 正太郎は勇気を振り絞ってそれを言い切った。今の言葉は、彼の本音であり、戦場を駆け抜けるための信念だからだ。しかし、この言葉の意味が今の勇斗に通じるものかかなり不安だった。

 もし、彼にこの真意が伝わらなければ、黒塚勇斗はもう立ち上がることすら出来ない。この一線を超えられなければ、勇斗は二度と戦士になろうとは思わないだろう。しかし――

「ぬおおおおおおーっ!!」

 勇斗機はホバーで一気に体勢を立て直し、烈火のごとくこちら側に突進してきた。それはまるで雷鳴のように轟いて、いかにも下腹の奥底にズシリと迫り来る一撃であった。

「ウグッ……!!」

 二本の特殊警棒が、同時に正太郎機に打撃を与えた。しかし、辛うじて胴体に直撃を受けなかった。が、正太郎はそれを自らの警棒をクロスして受け止めるのが精一杯だった。

「へへっ、やればやれるじゃねえか、勇斗。間合いこそまだまだだが、今のは先代のジェリーにも負けず劣らずってところだったぜ?」

「しょ、少佐……、羽間少佐……」

 勇斗はこの時、生まれて初めて心の奥底にある何かがさらりとほどけて行った。彼が今まで抱えて来た何かを忘れさせてくれた一瞬だったのだ。

「さあ、ユー坊……いや黒塚勇斗。第一段階は合格だ。だが訓練はここで終わりじゃねえぞ。お前の特訓はここが入り口だ。次は、実戦の心得フェイズ2に移行する」

「フェ、フェイズ2……ですか?」



 

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