神々の旗印㊿


 その不躾な男はここのペルゼデール軍の将校らしく、正規軍の山吹色をした立派な軍服を身にまとっている。そして、そのがたいの良さとずんぐりむっくりな体形が、いかにも横柄であるかの如き性格を増長させている。

「おう、貴様が元反乱軍のへなちょこ軍師と誉れも高いハザマ・ショウタロウって野郎だな? 道理で途中で尻尾巻いて逃げ帰っちまうぐらいの優男面やさおとこづらだ。俺様は、この第五寄留軍統括作戦本部のウォーレン・剣崎大佐だ。これから愚鈍な貴様に敵位置への殲滅指令を与える」

「せ、殲滅指令? いきなり敵位置への攻撃命令だと……?」

 正太郎は、あんぐりと口を開けたままウォーレン大佐を見る。

「そうだ、この計画は急を要する。我々勇敢で優秀なるペルゼデール正規軍は、この第五寄留の東方面の先にある森の奥に、この度甚大な被害を受けた憎き凶獣ヴェロンどもの出現ポイントを捕捉したのだ。そこで、貴様を含めた五人小隊で、そのポイントを完全特定し、それを破壊してくることを命ずるわけだ!」

「な、なんだと!? それもたった五人で!? そんな無茶苦茶なことってあるかい、黒崎大佐!?」

「言葉を慎め、羽間少佐! 卑しい外様将校の分際で!! 貴様ごとき元反乱軍の兵士が、この優秀たるペルゼデール軍の階級を拝領しているだけでも有難いと身分をわきまえろ! 貴様のような愚連隊出身の輩が、全く我が身を恥じることもなく我が軍の少佐などと……。恥を知れ、恥を!! 貴様のようなクズなどには断じて勿体ないぐらいだわ!!」

 ウォーレン大佐は、口角から飛沫が湧き出でる程に興奮している。

「ふん、なるほど。そういうことねえ……。こちらにいる七尾大尉の仰っておられたことも、満更ってわけじゃねえわけか」

「何を訳の分からんことを言っている!? 俺様はな! 貴様のごとき一介の浮浪者兵士など絶対に認めんぞ! 愚連隊上がりのたった一人の活躍で簡単に戦況がくつがえるほど戦争は単純なものじゃねえ!! そこんところよく肝に銘じておくんだな!!」

 ウォーレン大佐は言葉を言い切ると、肩で風を切るようにきびすを返し、のっしのっしと軍事キャンプ内を立ち去るのであった。

「なんだい、ありゃあ? まるでジメジメした気味の悪い台風だぜ……」

 正太郎が呆れ顔で言葉を吐くと、

「僭越ながら、少佐殿……。この世で何より怖いものは、男の嫉妬に他なりますまい……」

 と、七尾大尉がそっと言葉を添える。

「いやしかし……七尾大尉、こりゃあ、とんでもいい迷惑ってもんですぜ。こちとら別にそんなこといちいち気に掛けちゃいねえってのに……」

「いいえ、これこそが男に生まれ出て来た以上はけて通れぬもう一つの敵というもの。この先が思いやられますな……」

 正太郎は、この軍に属することにした時点で多少の覚悟はあった。がしかし、ここまであからさまであると、もはや溜息をつかずにはおれなくなる。

(この人類が生き残るか生き残れないかって時によ。こんなくだらねえことにこだわるなんざ、俺の頭の中では辿り着けねえ思考経路だぜ……)

 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る