神々の旗印㉔


「ああ……烈。しっかし、何ともこりゃあ、よくこんなに人が集まったものだぜ……。俺たちの連れが、一体全体何をやらかしてるって言うんだ……?」

 正太郎は、胸ポケットから偵察用の小さな双眼鏡を取り出すと、それで人だかりの中心部を覗き込む。

 すると、

「あ、あいつら、何やってんだ!? 同士で格闘戦やってやがる!!」

 正太郎が驚くのも無理はない。フェイズワーカーとは、フェイズウォーカーが開発された以前に製作された作業用ロボットであり、特段自律思考を有した人工知能なども搭載していないシンプルなマシンだ。それゆえに、それ同士で戦闘を行うなど普通は考えるに至らない。

 正太郎は双眼鏡から目を外し、咄嗟に下を窺うと、

「大尉! 七尾大尉! これはどういうことなんだ!? あのフェイズワーカーは、あなたの管轄の代物しろもんじゃねえですか!?」

「ほっほっほ、よくお気づきになりんさった、少佐殿。さもあらん、アレは私の管轄する整備部隊の代物でございますよ」

「ご、ございますよって……七尾大尉。一体全体アンタ、あいつらに何を……!?」

「いや、それは逆ですな、羽間少佐。私は、あの子らに頼みこまれてあれをお貸ししたのです。あの子らに嫌というほど頼み込まれてね」

「頼み込まれただと?」

「ええ、どうやらあの若くて可愛らしい女の子と、金髪の青年兵は、ここにあるはぐれフェイズウォーカーとの相性が合わなんで四苦八苦していたようなのです。そこで、少佐殿のお連れ様が提案したのが、どうやらサポート人工知能抜きの訓練をしようということだったようです」

「それで大尉は、あんなオンボロのフェイズワーカーを提供したと?」

「ええ、その通りです。何せ昨今の世の中は、何かと人工知能に考えを任せきりにしてしまう傾向がありますでな。そんな中で、サポート人工知能を頼らずとも、自分の力量だけで実力を試そうなどと、今の若い者にしては良い心掛けだとは思いませぬか、少佐殿?」

「あ、ああ、だがしかし……」

「ほっほっほ、こんなことでたじろぐとは、百戦錬磨を誇る少佐殿らしくありませんな。なあに、あのフェイズワーカーは、長年の使い古しでいくら壊しても到底問題のない代物です。少しでもパイロットの育成に役立てられるのなら安いものでございますよ」

「は、はあ……」

 正太郎は空返事をした。しかし内心は複雑な心境である。

 なにせ、あの黒髪の美少女と、ジェリー・アトキンスの姿をした男は謎の力に満ち溢れている。二人は快くパイロットになることを承諾したものの、本来、敵なのか味方なのかすら分からない。

 そして、

(あの坑道内で見たあいつら二人の無茶苦茶な力が、吉と出るか凶と出るか、それすらも分からんしな……)






 


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