神々の旗印⑳
ジェリー・アトキンスの姿をした勇斗は、イーアンに何も言い返せなかった。まさか、自分の中身が本当はジェリー・アトキンスではなくて、元ペルゼデール軍女王親衛隊ペルゼデールクロス所属の隊長、黒塚勇斗であることを。そして、その傍らにいる黒髪の美少女こそが、彼の愛機のサポート人工知能である早雲であることを。
実際、それを言ったところでどうになるものでもないことは分かっていた。彼が隊長としての実力がないことを一番よく理解していたのは彼自身だからだ。
その実力不足を補うため、昼夜問わず戦闘訓練や戦略のレクチャーをしてくれたセシル・セウウェルの謀判を機に、彼自身もその関係性を疑われ、親衛隊隊長の役を更迭されてしまったのだ。
だが、そんな悲運な境遇に遭ったとしても、彼は軍に対して何も言い返せなかったのである。それは正に、自らの力量不足を感じざるを得なかったからだ。
(お、俺は結局、何も掴んじゃいない。何も得られちゃいない。ジェリー隊長のこんな体を受け継いだとしたって、俺自身が何も成し遂げちゃいないんだ……)
勇斗は自らに虚しさを覚えていた。
そんな彼に向かって、
「おい、ジェリーさんよ? これは提案なんだが、いっそのこと人工知能サポート抜きで一対一のシミュレーションをやっちゃどうだろうか? お前さんの今の実力を図る上で大事な事なんだがな。いくら記憶喪失だつったって、動かし方ぐらいは何とかなりそうだろう、その様子じゃ」
「え、ええ、そうですね、イーアン曹長……」
「ははっ、その曹長っての付けられるのは何だか俺にはむずがゆいさね。そのまんまイーアンとだけ呼んでくれ」
「い、いえ、曹長。俺は軍属だからじゃなくて、あなたに教えてもらう立場として、あえて曹長と言わせてもらいますよ。これは形式的な意味合いじゃなくって、命を預け合える関係性として」
「ううん、そうか。まあ、そう言うんなら、俺だってやぶさかじゃねえがな。……んったくよう、そういう堅っ苦しい物の考え方は以前のままだぜ……」
勇斗は今、なぜそのように言葉を発してしまったのだろうと思った。確かに今の言葉は本心から出た言葉である。だが、今までの自分の性格からしても、まだ精神的に子供である自分という器からしても、そんなふうに相手を敬うような賢い言葉を発せられるほど成長していないことは自覚している。
(いつから俺は大人になってしまったんだ……?)
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