神々の旗印⑮


 ジェリー・アトキンスの姿をした黒塚勇斗は、まるで蛇に睨まれたカエルでしかなかった。あの時の印象が余程こたえて居る。

 そんな状態にいてもたっても居られず、

「あ、あの……、その方は……そのジェリー・アトキンスさんは、記憶喪失なんです……!」

 いきなり黒髪の美少女が割って入った。

「何? 記憶喪失だと!?」

 正太郎が怪訝な表情で見つめ返す。

「え、ええ……、その方は、自分がどこの誰だか分からず森の中を彷徨っていたところで私と出会ったんです」

「ほう……、そうなのか?」

 正太郎の目が、いかにもと言った白々しい光で問う。

「え、ええ……、間違いありません。私、この方と森の中で出会ってから、色々と問い質しました。でも、過去の事とか名前とか、一切覚えていなかったんです」

 何とも少女の発言とは思えぬほどの歯切れのよい返答だった。

 隣にいるジェリー・アトキンスの姿をした男も、そんな可憐な少女の堂々とした態度に感心したのか、瞼を見開いて大きくうんうんとうなずくばかりだ。

 だが、

「なあ、お嬢ちゃん。キミは、そいつが記憶喪失で名前も分からないと言ったな? なのに、なぜ彼がジェリー・アトキンスだと分かったんだ?」

 正太郎は矢継ぎ早に問うた。こういった時は、相手に考える隙を与えるのは得策ではない。すると、

「あ、え、ええ……。それは簡単な事です。この方が寝言で言ったんです。自分はジェリー・アトキンスだって。私、この方の看病をしている時にそれを聞きました。きっとそれがこの方の名前なんだなって思ったんです。そして今、あなたがこの方をジェリーと呼んだ時に、それが確信に変わったのです。何か変でしょうか?」

「ふうん……。いや、別におかしかないね。なかなか良い勘してるじゃねえか、お嬢ちゃん。キミがひいでているのは見た目だけじゃねえってことだな?」

 正太郎が、わざとらしい素振りでいやらしい眼差しつつ彼女の傍に来て匂いをくんくん嗅ぎまわる。すると、

「や、やめ……やめろ、は、はざま……しょ、しょうたろう!!」

 と、ムキになってジェリーの姿をした勇斗が割って入った。「彼女に何をするんだ!!」

「ほほう、さっきから気になっていたんだが、記憶喪失だというのに、ジェリー。何でお前は俺の名前を知っているんだ?」

「そ、それは……」



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